「いってみれば、ホラー映画は精神の血抜きをする床屋のようなものだ」と書いたのは、あの『シャイニング』などで知られるホラー小説の巨匠スティーヴン・キング氏だ。彼の稀なノンフィクション本『死の舞踏』(安野玲・訳)にはこんな言葉もある。「ホラー映画は奇形を讃えているわけではない。奇形についてくり返し語ることによって健康と生命力(エネルギー)を讃美する」、けだし名言。今回の実験結果も健常人の証しだろう。
また、究極のサバイバル映画『127時間』(2010年作品)の試写会で失神者が続出した際、現地の神経科部長がこんな談話を残している。
「映画を観て失神する人は、献血の際などにも失神経験のある人も多いんだ。似たような反応は自然災害など極度のストレス下でも起こり得るし、重要な臓器にアドレナリンのような化学物質が放出される。しかも短期的かつ大量に放出されると心拍のリズムがおかしくなり、死に至る場合もあり得るよ」
今回のオランダでの実験では、双方の鑑賞例でも「その他の血餅をつくるタンパク質(=トロンビン-アンチトロンビン複合体、Dダイマーなど)に対する影響は見られなかった」と報告されている。つまり“恐怖”は血液凝固のきっかけにはなるものの、血栓などを形成する原因にはならない事が示唆されたというわけだ。
Nemeth氏らはこう結論づけている。「われわれが突然の恐怖に直面した時の血液凝固反応は、危険な状況下で失血した場合に備えて、身体を準備させるものなんです。そういうかたちで進化上、重要なベネフィットがあったと考えられます」
しかし、血友病患者の止血方法は未だに開発途上である……。
(文=編集部)