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脳内のGPS「グリッド細胞」が若者の“アルツハイマー脳”を解明する!?

 ドイツの研究グループは、アルツハイマー病発症の遺伝的リスクが異なる18~30歳の人たちを被験者とし、「バーチャルリアリティー(VR=仮想環境)」を使って空間認知と記憶に関連する脳内の機能を調べ、結果を比較した。

VRとは、CGとサウンドによってリアルな仮想空間を作り出す技術のこと。現実に存在しないものを見たり聞いたり、触れたりすることができ、アミューズメント施設やコンピュータゲームなどで体験した人もいるだろう。

 実験では青空や山、芝生の上にさまざまな日用品が散在する仮想空間が用意され、被験者はそこを歩き回って、それらの仮想オブジェクトを拾い集め、再び元の場所に戻すテストを行った。

 そして実験中、被験者の脳活動をfMRI(磁気共鳴を使って体内活動を画像にする技術)を使ってモニタリングした。すると、アルツハイマー病を発症するリスクが高い被験者(アルツハイマー病の危険因子とされる「アポリポタンパク質E4」を持つグループ)は、そうでない人たちに比べて、グリッド細胞の活動量が明らかに少なかったという。

 しかしパフォーマンス自体は劣っていなかった。彼らは空間認知をグリッド細胞ではなく、海馬の方で補っていたからだ。このように、アルツハイマー病発症の遺伝的なリスクが高いグループは、早くから独特な脳内活動を示すことが、グリッド細胞を通じて明らかになったのだ。

早期治療の可能性に期待

 このような、グリッド細胞の機能異常といった早い時期の指標が見つかることは、アルツハイマー病研究の貴重な前進になるかもしれない。なぜなら、アルツハイマー病の悪化を最小限に抑えるには、医療による早期の介入が最も望ましいからだ。

 「研究に参加した若者が、将来アルツハイマーになるかどうかはわからない。だが、この研究は、なぜ一部の人の発症リスクが他より高いのかを理解する上で重要です」と英国アルツハイマー・リサーチ博士のローラ・ピップスは語っている。

グリッド細胞や海馬の研究が進めば、アルツハイマー病型認知症の新たな予防法や治療法が生まれる可能性がある。未だに決定打のない分野だからこそ、研究の進展に期待したい。
(文=編集部)

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