オックスフォード大学のニック=ボストロム哲学教授は、DNA配列が決定した後の人間の胚を選別することで数十年後には国民のIQを60ポイント上昇させることができると見積もっている。さらに胚の遺伝子を操作できれば、効果はもっと高いはずである。
今年の夏、フランスの調査機関が実施した「胚操作」についての国際アンケートによると、操作に賛成と答えた人はフランスではわずか13%だが、インドでは38%、中国では39%にものぼった。さらに、若者に限ると中国人の半数は賛成だという結果がでたという。中国人の若者の2人に1人は、自分の子どもが優秀になるなら「胚操作」をしてもよいと考えている。
米国は反対の声明、日本は専門調査会が検討中
当然ながら、中国の「胚操作」実験は、世界中から非難を浴びた。米・ホワイトハウスは5月26日、「現時点で超えてはいけない一線だ」と声明を発表。日本政府は6月、生命倫理専門調査会で「受精卵のゲノム編集が倫理的に認められるかどうか検討する」ことを決定、現在検討中である。
人類は、原始時代の狩猟生活から農耕社会を経て工業ひいては情報社会を作り出し、たえず「どうやって食っていくか」を追及してきた。ところが、人工知能を生み出したことで、人類自身にとっての新たな脅威も出現した。食っていく、生きていくために「脳をいじる」、そこまで手を出していいのだろうか。東京五輪後も、職があることを祈るのみである。
(文=編集部)