腸は脳や中枢神経系から独立して活動することができる(shutterstock.com)
腸の主な役割は、食べ物を消化し、水分や栄養などを吸収し、食物のカスから腸内細菌を使って便を作らせること。しかし、腸の役割はそんなに単純なものではない。最近では腸の研究が進み、脳との関係、さらには、全身の健康を大きく左右する臓器として注目を浴びている。
腸は脳の監督下ではなく、独自に働ける
人間の腸は、たんぱく質や脂肪が豊富な食物が運ばれてくると、膵臓や胆嚢からたんぱく質や脂肪を分解する酵素を含む膵液や胆汁を分泌させて、十二指腸から小腸に送り出す。また、腸に食物が入れば、腸壁の筋肉がミミズのように動いて肛門の方に押し出そうとする「蠕動運動」が起きる。毒素を持つ細菌が腸に入れば、下痢を起こして毒素を体外に出そうとする。
このような働きや動きは、脳や中枢神経の指令で行われるが、実は腸は脳や中枢神経系と独立しても活動することができるのだ。
これは人間の腸は「腸神経系」という、中枢神経系とは別の独自の神経ネットワークを持っているためである。よく「腸は第二の脳」とよばれる所以がここにある。このように脳や中枢神経と独立した神経系をもつ腸だけで、脊髄を損傷しても腸は働き続けることができる。
さらに腸は、副交感神経という中枢神経の支配も受けるため、脳と腸には密接な関わりができる。
脳で緊張したり、大きなストレスがふりかかると、腸ではお腹が痛くなって下痢をするといった経験をしたことはないだろうか。これなどはまさに、脳と腸の関係を表わしている。また逆に腸で便秘が続くと脳ははうつ状態になりやすい。脳の神経伝達物質であるセロトニンは腸にも存在し、体内の多くのセロトニンが腸で作られている。セロトニンは脳では快楽物質として働き、腸では蠕動運動を活発にする役割をはたしている。
脳のストレスによって腸内のセロトニンが増えると、過剰な蠕動運動が誘発されて腹痛や下痢が起こると考えられるし、腸内環境の変化によって脳内のセロトニンが不足して起こるうつ病も指摘されている。
このように脳と腸とは密接なつながりがあり、お互いに指令を出し合っている。