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【シリーズ「再生医療の近未来」第6回】

年間4万人が亡くなる心筋梗塞の再生医療――iPS細胞から「前駆細胞」を移植

 大阪大学の澤芳樹教授(心臓血管外科)と慶應義塾大学の福田恵一教授(医学部循環器内科)が進めている基礎研究や、京都大学の中辻憲夫教授らが取り組んでいるiPS細胞を心筋細胞に効率的に分化促進させる低分子化合物因子の発見などがある。

 福田教授は、iPS細胞から心筋細胞へ分化を活性化する物質を特定したうえで、心筋細胞を大量に増やす成長因子を解明。心筋細胞を高純度に精製する培養方法を開発したため、がん化のリスクをコントロールできた。免疫不全マウスの実験では、移植した心筋細胞は、がん化しないことが確認されている。

 澤教授は、心筋梗塞を起こさせたブタの心臓に、iPS細胞で作った心筋細胞の培養シートを貼りつけたところ、ブタの心機能が改善された。しかも、ブタの心臓にがんは発生せず、心筋細胞移植の安全性と有効性が再確認されている。文部科学省のiPS細胞研究ロードマップによると、この心筋細胞の培養シートによる心筋細胞移植は、早ければ3年以内に臨床研究に移行する見込みだ。

 一方、中辻教授らは、iPS細胞から作った心筋細胞に電気ショックを与えて、心筋細胞に不整脈の症状を起こさせることに成功。種々の薬剤を投与し、不整脈治療に寄与する低分子化合物因子も発見できた。今後は、頻脈性不整脈の病状と治療のメカニズムを解明したり、不整脈治療に使う新薬のスクリーニング(選別試験)に応用したりしながら、より品質が安定した安全性の高い治療法の開発に期待が高まっている。

 このように心筋細胞移植の仕組みの解明や創薬研究への活用などが進んでいるので、心筋梗塞の再生医療の前途は、とても明るい。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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