たとえば、性ホルモンの合成に関わる酵素が生まれつき欠けているために、男性ホルモンのアンドロゲンが多量に作られる先天性副腎性器症候群の子どもの場合だ。
この疾患に罹った子どもに、自由描画法で自由に絵を描かせると、男の子は自動車や飛行機や建物を青、緑、黒などの寒色系の色で描き、女の子は人や花や蝶を赤、ピンク、黄色などの暖色系で描く傾向がある。このような描画の差は、生まれつきの男女差によるものと考えられている。
この疾患の女の子は、男性ホルモンのアンドロゲンが優勢なので、陰核が肥大化し、男の子は陰茎が肥大化する。たとえ女子として育てられても、自由に絵を描かせると、男の子のような絵を描く傾向が強くなる。
このように男女差が子どもの行動や性格に影響を及ぼすのはなぜだろうか? そのメカニズムは、完全には解明されていないが、性ホルモンが脳の神経細胞に直接作用することに関係しているらしい。
従来の神経内分泌学の定説は、ステロイドホルモンなどの性ホルモンは脳内では合成されず、精巣、卵巣、副腎皮質でのみ合成され、脳に運ばれて作用するとされていた。
しかし、記憶学習を司る器官である海馬が、シナプスによって神経細胞に情報を伝達しながら、脳内でステロイドホルモンを合成していることが判明した。このステロイドホルモンは、精巣、卵巣、副腎皮質で合成されるステロイドホルモンと区別して、脳ニューロステロイドと呼ばれる。脳ニューロステロイドが脳の神経細胞に直接働きかけて、子どもの行動や性格に影響を与えているのだ。
男らしさ、女らしさは、生まれつきか?
乳児期の子どもにも、男女の行動に差が見られる。
たとえば、男の子のほうがよく泣く、女の子はよく笑うと言われる。男性ホルモンのアンドロゲンは、妊娠中の母親の副腎皮質ホルモンと子どもの副腎皮質ホルモンが合成され、その結果、陰茎が形成される。男の子は、妊娠後期と出生直後に血液中の男性ホルモンのアンドロゲンが多くなる。アンドロゲンが多くなることで、脳が強く刺激され、よく泣くという行動につながると考えられている。
生まれながらに男女の行動に差があるのは、生物学的な男女差が関わっているのは事実だ。しかし、男らしさ、女らしさという行動パターンは、必ずしも生まれた時から存在するものではなく、社会的・文化的な生育環境などの影響を受けながら、自然に身につくものなのだ。
(文=編集部)