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【連載 病理医があかす、知っておきたい「医療のウラ側」 第3回】

痔は人間にしか見られない病気! "直立二足歩行"が背負った「肛門の宿命」

 お尻を拭くのに紙を使うようになったのは最近のこと。世界的にみると、現在でも肛門を拭くのに紙を用いているのは全人口の3分の1程度であり、植物の葉、木片や砂の使用や直接の水洗いなど、さまざまな方法で行われているそうだ。

 日本で尻拭きに紙が使われだしたのは江戸末期といわれるが、貴重品の紙を使えるのはほんの一握りの人たちであった。昭和初期になっても、庶民は藁やフキ、クズ、トチ、シダ、ダイズ、サトイモなどの葉っぱで拭いていたという。フキ(蕗)の名はどうやら「拭き」に由来するらしい。

 考古学の分野では、籌木(ちゅうぎ)と称される「糞べら」が多数発掘される場所をトイレとみなすとのことだ。籌木は、明治時代まで全国あちこちで使われていたとされる。
 

汚れた指で、トイレットペーパーの"折り紙"はしないで!

 学生時代の感染症内科の講義で、「下痢便を拭くときに、便が指先につかないようにするには、紙を10枚重ねなければならない」と聞いたことが印象に残っている。

 いくら一生懸命にお尻を拭いても、所詮、完全に拭き取ることは不可能である。

 『トイレと付き合う方法学入門』(朝日文庫)の著者である鈴木了司先生による、寄生虫全盛時代の逸話がある――。ある産婦人科の医師が診察の合間に、ご婦人がたの蟯虫検査をした。例のセロハンテープ法である。

 産婦人科を受診する女性の多くは局部をきれいにしてくるはずなのに、蟯虫卵が3人に1人の割合で見つかったという。しかし、あまり強くこすると痔によくない.........。やはり、これからも「温水洗浄便座」の時代なのだろうか。

 同じく鈴木先生の言。トイレの使用後にトイレットペーパーを三角に折るご婦人方へのお願い。「どうか、汚れた指で"折り紙"はしないでください」


連載「病理医があかす、知っておきたい“医療のウラ側”」バックナンバー

堤寛(つつみ・ゆたか)

つつみ病理相談所http://pathos223.com/所長。1976年、慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍。2001〜2016年、藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。2017年4月~18年3月、はるひ呼吸器病院・病理診断科病理部長。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書、電子書籍)『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス、電子書籍)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)、『患者さんに顔のみえる病理医からのメッセージ』(三恵社)『患者さんに顔のみえる病理医の独り言.メディカルエッセイ集①〜⑥』(三恵社、電子書籍)など。

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