「精神科にアクセスできない理由として、もっと現実的なこともあります。電話が苦手で、受診の予約をすることができないというのです」
メールとネットが主なコミュニケーション手段となっている若い世代のなかには、知らない相手が出る固定電話に連絡して、受診の予約を取ることとても困難に感じてしまう人もいる。そういう人のために、OVAでは実際に問い合わせの電話で話すべき内容を文章化し、メールで送ることもある。「初診なのですが、今週空きはありますか」といった内容だ。
「20代の若者のなかには、大人ときちんと話した経験に乏しい人がいる。彼らのコミュニケーション手段は、LINEやFacebook、Twitterなどのテキストベースのものが主流です。そういう人は、行政が相談窓口の電話番号を用意しても、なかなか電話をかけてくることができない。それでも、メールでアクセスできるOVAならつながることができる。それが"インターネットによる自殺予防を行っている、我々の存在価値のひとつだと思うんです」
そして、伊藤さんがOVAの活動で大事にしているのが、入り口はネットであっても、その人とやり取りをすることで、精神科医や支援機関など、その人が現実社会でつながれる場所を見つけるように導くことだ。"ネットからリアル"につなぐ。それこそが、インターネットで自殺を防ぐことを支援する最大の目的なのである。
(文=里中高志)
里中高志(さとなか・たかし)
1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。精神保健福祉士。フリージャーナリスト・精神保健福祉ジャーナリストとして、『サイゾー』『新潮45』などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に精神障害者の就労の現状をルポした『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。