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【DNA鑑定秘話 第8回】

酒井法子の覚せい剤事件 証拠はガラスパイプの唾液と毛髪だった

 父親が同じ腹違いの姉弟(異母姉弟)は、双方の両親から半分ずつDNA型を受け継ぐので、DNA型の50%は同一になる。だが、父親から弟に遺伝するDNA型は、必ずしも姉に遺伝しない可能性がある。この場合の判定確率は約80%。DNA型の血縁鑑定は、90%以上の判定確率がなければ判定不能になる。さらに高精度の判定を行うためには、弟の母親のDNA型を調べればよい。

 弟のDNA型から母親のDNA型を取り除くと、姉弟の父親のDNA型が特定できる。特定した父親のDNA型を、ガラスパイプに付着した唾液のDNA型と照合すれば、判定確率は90%以上に高まる。その結果、ガラスパイプに付着した唾液のDNA型は、酒井のDNA型と一致していると判断できたのだ。

 酒井は尿検査と毛髪検査を受けた。覚醒剤は、尿からは検出されなかったが、毛髪から覚醒剤の成分が検出できた。

 ガラスパイプに付着した唾液のDNA型と酒井のDNA型の一致。それは、酒井がガラスパイプを使用したことを証明する。ガラスパイプに付着した覚醒剤の成分と酒井の毛髪から検出した成分の一致。それは、酒井の体内にガラスパイプから吸引した覚醒剤が残っていたことを証明する。この二つの事実を突き合わすと、酒井はガラスパイプを使用して、覚醒剤を使用した事実が立証される。

 ヤッピー、いただきマンモス、うれピーなど、のりピー語を流行らせたのりピー。かつてのアイドルが覚醒剤にうかつにも手を染め、快楽に暴走した。自己をコントロールできない未成熟な熟女の大失態。警察もマスコミも大衆も、瞬間的に攪乱されたように見える。

 司法は、犯罪を裁くが、ヒトの心を育てる力はない。覚醒剤事犯の再犯率は、およそ50%という。覚醒剤の依存性の頑迷さとリスクを如実に物語る。しかし、事件の背後では、DNA型鑑定が異母姉弟を特定したり、毛髪検査が覚醒剤の使用を証明したり、法科学の最先端テクノロジーが本領を発揮した。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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