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【連載第10回 死の真実が“生”を処方する】

タクシー運転手の約2割、長距離トラック運転手の約3割! 驚くべき"居眠り運転"の実態

 なぜ、このように無理な運転を続けるのでしょうか?

 その背景には、運転者が無理な運行を強いられていることが挙げられます。さらに、眠気の原因は体力の消耗でも起こりますが、運転者が目的地で荷物の積み降ろしをしなければならないことも関係しています。居眠り運転を、単に運転者の責任として片付けてよいのでしょうか。その背景にある問題点を調査し、抜本的な対策を講じるべきです。

 近年、過労を原因とする労働災害が注目され「過労死」と呼ばれています。前述のような事故だけでなく、長時間の労働などによる疲労の蓄積が多くの病気の発症につながることが指摘されています。

 そこで、疲労を原因とする事故や病気の予防のために、労働者個々の健康状態を正確に把握することが必要です。そのため、労働安全衛生法で面接制度が規定されました。これは、疲労の蓄積がある労働者、時間外や休日労働が月に100 時間を超えている労働者に対し、本人の申し出に基づいて医師(産業医など)が面接を行うものです。そして職場では、この面接の結果を参考に、適切な措置を講じることが義務付けられています。すなわち、労働時間の短縮や就業場所の変更などです。

睡眠時無呼吸症候群

 少し古い話題ですが、平成15(2003)年に山陽新幹線の運転士が居眠り運転をしたことが明らかになりました。幸いにも負傷者はいませんでしたが、居眠り運転の原因は「睡眠時無呼吸症候群」であることがわかりました。

 この病気は、睡眠中に本人が無意識のうちに呼吸が止まってしまうものです。十分に眠れないことから、日中の居眠りや疲労の蓄積、あるいは高血圧や狭心症の合併を引き起こし、日常生活に大きな影響を与えることがあるのです。

 睡眠時無呼吸症候群の疑いがある人は、早期にスクリーニング検査(精密な検査が必要かどうかふるいにかける検査)を行うことが重要です。特に運送業などの事業主は、運転者の健康管理の一環としてスクリーニング検査を取り入れるべきでしょう。

居眠り運転を防止するために

 居眠り運転による事故を防止するためには、勤務時聞を調整し、長時間運転を制限すること、運転者の体調管理に気を配り、体調不良時の運転を控えるといった対応が重要です。

 自分の体調がすぐれない時に我慢して運転することは、安全確保の点からは決して良いことではありません。事前に職場に申し出ることが必要です。先に紹介した医師の面接制度を受けることも、労働者からの申し出によります。このような申し出をしやすい環境を作ることも重要です。申し出たからといって、労働者に不利益となることはあってはなりません。

 さらに、睡眠時無呼吸症候群などの病気を有する人の早期発見も重要です。先に紹介したように、一度でもニアミスを経験した運転者に対しては、医師らが中心となって面接を行い、日常生活と眠気について積極的に調査することが必要でしょう。そして、十分な休養にもかかわらず、眠気が頻繁にある場合には、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査を行うことが重要ではないでしょうか。


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一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)
滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授。厚生労働省死体解剖資格認定医、日本法医学会法医認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999~2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(理事)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)など。

連載「死の真実が"生"を処方する」バックナンバー

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