MENU

【シリーズ医師の本音「ドクターズ・ヴォイス」第1回】

医師の本音「自分では受けたくない治療は分かっている」萬田緑平さん(緩和ケア診療所いっぽ)

DRS_VOICE01.jpg

緩和ケア診療所「いっぽ」医師・萬田緑平さんは「医師が患者につらい治療を施す理由は2つある」という

 自分では受けたくない治療を、あえて患者に施す医師が多いのはなぜだろう? 医師は、何を考え、悩みながら、患者に向かっているのだろう? 患者や家族は、医師に何を期待しているのだろう?

 そんな素朴な疑問から「ドクターズ・ヴォイス」を立ち上げた。今回は、緩和ケア診療所「いっぽ」の萬田緑平医師のストレートなヴォイスを届けよう。

自分や家族には、奨めたくない治療があるが......

 「治癒が困難なために、絶対に避けたい、つらい治療がある。だが、医師は患者にとってつらい治療と知りながらも、患者に施術することがある。多くの医師は、自分が病気になった時は受けたくない、つらい治療が何かは分かっている」――。萬田医師は単刀直入に切り出した。

 例えば、治癒の見込みがきわめて困難ながん治療の場合、抗がん剤治療を行わない医師は多い。医師仲間でも「抗がん剤はカンベンしてほしい」「この手術だけは絶対にしたくない」などと話すこともよくあるという。闘病のつらさや苦痛、日々疲弊していく患者の表情や身体状況を日常的に見聞きしているので、抗がん剤の有用性の是非は、ある程度の確証をもてるからだ。

 しかし、患者に抗がん剤治療を施す医師が不誠実というわけではない。真面目で誠実な医者ほど、つらい治療を患者に強いてしまうため、延命治療になりがちだ。医師が患者につらい治療を施す理由は2つある。

 その1つは、医師の強い使命感だ。病気を治すのが医師の目標だが、基本的には医師は真面目で律儀で優秀な人が多いので、治すことがミッションと考え、全知全能、全人格を投入して治療に専念してしまう。

医師は治療をやめるとどうなるのかを知らない

 「医師は、エビデンス(科学的根拠)が確認されている治療を受ければ、患者がどうなるのかは、よく知っている。だが、治療を受けなかったり、治療を中断したりすれば、患者がどうなるのかはよく知らない」

 なぜなら、医師は、そのような医学教育を受けていないからだという。病院では治療継続というスタンスでしか、患者に接することができない。医師に治療以外の選択肢はないのだ。

 医師が患者につらい治療を施すもう1つの理由は、患者の治療を願う家族の存在だ。患者が幸せな最期を迎えられるか否かの鍵は、家族が握っている。「家族は、心から患者の治癒を願っている。患者に頑張れ!と励まし、医師になんとか助けて!と懇願する。それが、家族の嘘偽りのない自然な心情だ」。患者、医師、家族が力を合わせれば、きっとなんとかなる。現代の医学の恩恵を活かしながら、優秀な医師の能力と経験さえあれば克服できる。多くの家族が希望の灯を胸にともそうと懸命になるのは当然だ。

家族は患者をひたすら思い、医師は期待に必死に応えようとする

 このような家族の強い懇願や熱意に接した医師は、「一肌脱ごう!」と感じるはずだ。「これ以上は患者が苦しむだけなので、抗がん剤治療をやめましょうと提案したらどうなるだろうか? 見放された、医療の放棄・怠慢だと非難されかねない。医師は家族の意向に従わざるをえない」

 つまり、患者本人よりも家族の願いが決定権を持つ。患者が強い意志を持たない高齢者の場合は、特に家族の嘆願を受けた医師の治療が患者の疲弊を招きがちだ。患者は、こんなつらい治療はたくさんだ! 家に帰りたい! と暴れる。ベッドに体幹抑制され、点滴を抜かないように縛られる。鎮静剤を打たれ、意識障害に陥る。そして亡くなっていく。家族は患者のためを思い、医師は期待に応えようとしているのに、最悪の結果を招く避けがたい現実がある。

在宅緩和ケア医は、がん患者の救世主になれる

関連記事
アクセスランキング
専門家一覧
Doctors marche