病気になった子どもをどこに預ければ...... kase/PIXTA(ピクスタ)
親が仕事の際などに病気の子どもを預かる「病児・病後児保育」。子どもが体調を崩したときに預け先がない、「病児(病気になった子ども)」「病後児(病気から回復中の子ども)」の保育問題は、働く親にとって仕事と子育ての両立の壁となっている。
基本的に保育所などは、病気になった子どもを預かってはくれない。医療ケアが専門ではなく、ほかの子どもに感染するリスクも高いからだ。子どもが熱を出したり病気になると、働いている保護者は仕事を早退して迎えに行ったり、翌日の預け先が確保できなければ、欠勤を余儀なくされる。
全国で核家族化と少子高齢化が進むなか、子育てをしながら安心して働ける環境づくりは、少子化対策にとって不可欠だ。なかでも病児・病後保育のニーズは高く、特に働く女性の需要は多い。しかし残念ながら、病児・病後児保育の機能をもっている施設は極めて少ないのが現状だ。
待機児童を解消できないのに病児・病後児まで......
これまで厚生労働省は、病児保育を平成7(1995)年度に「乳幼児健康支援一時預かり事業」として定義し、その後「病児病後児保育事業」へと拡大。保育所でも病気の子どもに対して一定の対応ができるようにした。
現行の制度は次の3つに分かれている。
①病児対応型・病後児対応型
地域の病児・病後児を、病院・保育所などに付設された専用スペースで看護師などが一時的に保育。対象は、症状の急変はなさそうだが、病気の回復までに至っていないため集団保育が難しく、家庭での保育も困難な子ども(対象の児童の年齢や病状などの要件は、区市や施設で異なるが、おおむね10歳未満)。
②体調不良児対応型
体調不良の子どもを一時的に預かるほか、保育所などに預けられた子どもへの保健的な対応や地域の子育て家庭や妊産婦などに相談支援も行う。
③非施設型(訪問型)
地域の病児・病後児に対して、看護師などが自宅を訪問し、一時的に保育する事業(平成23年度から実施)。
国は病児・病後児の保育事業を推進しているが、助成の交付実績(平成24年度)よると①1102カ所(病児対応型561、病後児対応型541、年間の延べ利用数は約49万人)、②507カ所、③1カ所しか行われていないのが現状だ。
そこで国は、平成27年度から制度を拡充。①においては、年間10人以上の利用や保育士と看護師の配置などは必要だが、利用の少ない日に地域の保育所を巡回支援などすると、基本助成額(年間約242万円)が倍増となる。
東京都の病児・病後児保育施設は126(平成27年1月現在)だが、平成31年度には160カ所への拡充を目指している。一部の都立病院でも病児保育を開始する予定で、近隣自治体が需要に応じて子どもの受け入れを調整する仕組みも取り入れる。
とはいえ、各自治体は"待機児童の解消"すらままならないのに、病児・病後児まで手がまわらないのが本音かもしれない。先月の厚生労働省発表によると、認可保育所への入所を希望しても入れなかった待機児童は全国に4万3184人(2014年10月1日時点)。当然、入所申込みをしていない潜在的にいる全ての待機児童数はもっと多い。
病児病後児の保育施設が増えない理由とは
なぜ、病児病後の保育施設は増えないのだろうか。経営的には、保育士や看護師を手厚く配置しなければならないため人件費の負担が大きい。病状が回復して予約がキャンセルになる例も多く、利用率が安定しないため、民間の医療機関などが独自に運営するには限界がある。このため、市町村の委託事業に国・県が補助するのが一般的だ。
昨年末、神奈川県川崎市で病児保育施設「ブルーラグーン」が閉鎖した。同施設は2012年10月、「北浜こどもクリニック」を経営する北浜直医師が病院を訪れる保護者たちの声を受け、クリニックの隣に開設した。市内で初めての病児保育施設だった。
利用料は当初、他の自治体から委託を受けている施設と同程度の1日2500円に設定。北浜医師は2013年6月、民間への公的支援を求めて署名活動し、集まった約1万3000人分を市と市議会に提出したが、受け入れられなかった。
ブルーラグーンでは、常に定員いっぱいの子どもを受け入れてきたが、期待した市の補助が得られず、開設から2年間で赤字が約4500万円まで膨らみ、閉鎖の決断を迫られたという。
いずれにしても、全国的に小児科医が不足しているなか、施設の充実だけでなく地域社会の理解と協力なしに、安心して子育てできる環境の実現は不可能だろう。
(文=編集部)