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【インタビュー 生活を整えることから依存症の治療が始まる! 第2回 榎本クリニック 深間内文彦院長】

依存症患者の社会復帰のためには、「入院医療から地域医療へ」の変化が大事

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アルコール依存症患者は増加傾向にある shutterstock.com

 池袋を本院に、新大塚、御徒町、飯田橋の3つの分院を持つ、精神科デイケア専門の医療施設「榎本クリニック」(東京都)。深間内文彦院長に、榎本クリニックの沿革や、デイケアという医療形態の意義について話を聞いた。

 「榎本クリニックは1992年、池袋で開院しました。当時は現在の建物とは違う場所で、地下1階、地上6階。外来以外に『アルコール』と『ヤング』と『メンタル』という構成でデイケアを行なっていました。榎本クリニックの榎本稔・現理事長が、日本におけるデイケアの創設に関与していたということもあり、これからは"入院医療"から"地域医療"へと精神科医療の中心は移っていくべき、という信念のもとに始めた経緯があります」

 その当時は、精神科の医療と言えば街中から離れた郊外や山間部の精神科病院で行なわれるのが普通。しかも一度入院したら何年も、ときには一生病院で生活することも珍しくなかった。榎本クリニックの開設にあたってのモットーである「入院医療から地域医療へ」とは、病院で寝起きするのではなく、自宅で生活しながら、治療と社会復帰の場としてデイケアに通うことこそ一般的になるべきだという考えに基づいている。

 「94年にデイナイトケアを開始。98年には現在の場所に移転しました。2006年には初めての分院として新大塚榎本クリニックが開院。07年には依存症やその他の精神障害から回復した人が自主製品製作販売や清掃サービス、レクリエーション等を行う作業所『NPO法人オーク』をクリニックのビルの地下で開設。11年には飯田橋、13年に御徒町の分院が開院し、いまに至っています」

さまざまな患者に対応する精神科デイケア

 世界的に見てもデイケアの歴史はそれほど古くなく、1945年、第二次世界大戦が終わった直後にカナダのDE.キャメロン医師と、英国のJ.ビエラ医師が始めたのが最初だと言われている。48年にはアメリカのエール大学およびメニンガークリニックでも始められた。日本では、国立精神衛生研究所で58年にデイケアが試行、65年に開始されている。

 「日本では、デイケアが診療報酬に加味されたのは1974年。88年には、診療所における小規模デイケアでも診療報酬が点数化されました。それでも、従来は統合失調症の患者さんが中心だったのですが、榎本クリニックはいち早く依存症の方の治療の場が必要だということを考えていました。統合失調症はもちろん重要な問題ですが、これからは依存症が医療の大きな焦点になってくる。榎本クリニックが開院した90年代にはアルコール依存症の患者さんは急増していましたが、一般の精神科病院でも受け入れないところも多く、その受け皿がどこにもない状態がありました。特に病院を退院はしたものの、仕事も日中の居場所もないという方が過ごせる場所がない。これではすぐに再入院してしまう現実が生まれてしまうわけです。その受け皿として、依存症の方のためのデイケアが必要だと、榎本クリニックはいちはやく考えたのです」

 榎本クリニックは、依存症のほかにも、高齢者やうつ病休職者、発達障害や高次脳機能障害などの方々を対象にさまざまな支援をしている。現在、デイケアの診療報酬は減らされる方向に向かっているというが、入院治療から地域医療への移行のステップとしてのデイケアの必要性は、依然として続いていくことが予想される。

深間内文彦院長インタビューバックナンバー(全4回)


深間内文彦(ふかまうち・ふみひこ)

榎本クリニック院長。医学博士。精神保健指定医、日本精神神経学会認定精神科専門医・指導医、日本医師会認定産業医、精神保健判定医、日本外来精神医療学会副理事長。東京医科歯科大学大学院研究科修了後、同大学難治疾患研究所准教授、国立大学法人筑波技術大学教授・保健管理センター長などを経て、2008年より医療法人社団榎本クリニック院長・理事、国立大学法人筑波技術大学名誉教授、日本女子大学カウンセリングセンター。主な著書に『かくれ躁うつ病が増えている』(岩橋和彦・榎本稔との共著、法研、2010)『うつ病リワークプログラムの続け方─スタッフのために』(うつ病リワーク研究会編、南山堂、2011)『「うつ」の捨て方─考え方を変えるために考える』(山下悠毅との共著、弘文堂、2014)ほか多数。

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