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【連載第2回 東洋医学と西洋医学の接点】

西洋医学で発見できない初期のがんを、体の異常信号から見つける中医学

 また、口の中の粘膜に白斑が現れことがある。白斑というのは口の中の粘膜が白くなっている部分。綿棒で拭っても取れない白斑は中高年男性で発症率8%ぐらいである。そのうちの1~5%の白斑は初期のがんのシグナルである可能性が高い。特に乳頭状白斑で、突起、硬結、潰瘍があれば、初期のがんである有力な兆候だ。
 
 舌に出る兆候としては、暗紅色または紫色の部分が長期に現われる場合に、がんの発生に要注意である。中国上海医科大学附属病院などの共同調査によると、12,448例の各種がん患者の舌を調べたところ、多数の患者の舌が紫色、暗紅色を示している。さらに、舌の両側に紫色の線条または不規則な黒班があれば、肝がんの発生が非常に高いので要注意。頚部に塊ができて、硬く、表面が凹凸していて、動かなく、境目が不明、圧痛がない場合に、がん発生の可能性は高いので、早めに病院の検査が必要である。

 鎖骨のくぼみ部分に硬い豆のような塊が現われ、最初圧痛はなく、動かすことができる場合。ほとんど自覚症状はないので油断しやすい。しかし、塊の増大により、豆のような塊は多数現われ、または結合して、動かない場合に悪性がんによるリンパ転移の可能性がある。早速病院の受診が必要である。

 手に現れる兆候もある。両手指の末端が冬でも夏でも蒼白、氷のような冷感があると、慢性胃腸病である可能性が高く、やがては胃がんになるケースが多く見られる。指の先または母指球筋、小指球筋には紅色斑点があれば、肝機能障害、肝硬変を示す。または、紅色が徐々に紫色に変れば、肝がんになる可能性が高い。
 
 手相を見るときなどの使われるさまざまな線は人体の生命活動の状態ともつながっている。その中では手首に一番近い生命線が小指球筋外側まで長く伸び、または黒い点がついている場合には腫瘍が体内に存在し、特に脳内の可能性が高い。健康線に暗褐色の斑点があれば、がんの発生を特別警戒する必要である。 

 爪の形態や色つやの変化が時々がんの発生を発信することがある。爪の甲には、外傷からではない紫色班があれば、早期のがんを注意する必要である。爪の甲に黒い線があれば、これは絶対油断できない兆候となる。 

腰痛で受診された患者さんはなんと胃がんだった

 実際にの症例をひとつ紹介する。2006年夏、62才の女性が来院した。
半年前から原因不明な腰痛が発生したため、整形外科を受診。検査の結果は変形性腰椎症であり、湿布と鎮痛剤を投与される。一週間後、痛みが少し和らいだため、友人の紹介で近所の接骨院に通った。そのまま2カ月を経ったが痛みが取れないため、再び整形外科に戻り、湿布、塗り薬、注射を繰り返していた。しかし、治療の効果は全く見えなかった。

 当院の検査で脈診が琴の弦をおさえるように触れる「弦脈」、脈拍が小刀で竹を削るように触れる「渋脈」であり、舌診が舌の中央に大豆の大きさの紫色班があり、背部の(脾兪、胃兪)に顕著な圧痛があり、腰部の圧痛は少々痛みが感じるだけだった。さらに、爪を見ると両足の母指の爪に黒い線が2本あり、中指、薬指の爪の色が褐色だった。そのような不思議な徴候が見つかったので、「問診」をすることで病気の全貌が解明された。

 実は原因不明の腰痛が起きると同時に、胃の隠痛(じわじわとした痛み)も起き、食欲不振、食べれば悪心・吐き気を生じ、体重は55キロから47キロへ急速に減少した。ところが、こうした症状について、整形外科も接骨院も皆、腰痛のせいだけでしか考えていなかった。

 私はさらに、腹部の堅さや柔らかさ張りなどを触って診る「「腹診」をしてみて、全てのことが分った。上腹部に固定している約2.5センチほどの大きさの塊がある。
「大変ですよ。胃がんである可能性が高いです。早く病院を受診してください」と私が言うと、患者さんは、今まで病院でも接骨院でも誰も言わなかったがんのことを、なぜ呉先生が言いだしたのかと不思議に思っている様子。

 私が検査の結果とがんの相関性を説明すると、「そうですね。私もずっと足の爪の黒い線に疑問と不安を感じていました。ところが、他の医者の答えは、『分らない』『知らない』『大丈夫だろう』だけでした」と患者さん。それから、「病院へ行ってみます」と帰られた。3週間後、患者さんから電話があり、「先生の話を聞いてよかった。胃がんでした。すぐ手術を受けて、術後回復もいいです。退院後、先生の治療も受けたいと思います。命を救ってくれてありがとう」と。

 このようなケースはは、私が40年間行ってきた日々の診療中のほんの一例であり、これからも、がんの早期発見やみなさんの健康のため、先人の智慧と自分の臨床経験で精一杯に頑りたいと思う。


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孫 迎

孫 迎(そんげい)
1985年中国上海中医薬大学卒業。元WHO上海国際針灸養成センター上海中医薬大学講師、上海市針灸経絡研究所主治医師1987年糖尿病について優秀な研究成果で、中国厚生省の三等奨を獲得。来日後、早稲田大学大学院臨床心理学修了。中国医学開発研究院理事長、専任教授。呉迎上海第一治療院副院長。
●得意分野:婦人病、不妊症、痛症、運動系、リウマチ、内科、内分泌科等。

連載「東洋医学と西洋医学の接点」バックナンバー

呉澤森(ご・たくしん)

呉迎上海第一治療院院長。中国上海中医薬大学院卒業。元WHO上海国際針灸養成センター講師、元上海針灸経絡研究所研究員、主任医師。1988年、北里東洋医学研究所の招待で来日。現在、多数の針灸専門学校の非常勤講師を務め、厚生大臣指定講習会専任講師、日本中国医学開発研究院院長、主席教授、日本中医臨床実力養成学院院長なども兼務している。『鍼灸の世界』(集英社新書)が有名。
●得意分野:不妊症、内科全般、生殖泌尿系統、運動系、脳卒中後遺症、五官科(目(視覚)・耳(聴覚)・舌(味覚)・鼻(嗅覚)・皮膚(触覚)。特に眼科)等

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