足を診れば全身が見える
靴ずれ、やけど、タコ、ウオノメ、深爪、外反母趾。あまりにも日常的すぎて関心も興味も湧かないし、気にも止めない。そんな人が多いかもれない。
しかし、糖尿病や下肢閉塞性動脈硬化症(ASO 註*)が進行し、深刻な高血圧症、脳血管障害、虚血性心疾患などを併発すると、ごくありふれたささいな足の傷や皮膚のトラブルでも、最悪の場合は足の切断に至る恐れがある。実に生命そのものに関わる重大な病変なのだ。
足のトラブルや生活習慣病から人生を守りたい! そんな警鐘を鳴らしながら、足と全身の健康に目を光らせるのがフットケアだ。毎日のスキンケア、爪の切り方、靴の選び方はどのようにすればいいのだろうか? フットケアのパイオニアとして多方面で活躍している一般社団法人・日本トータルフットマネジメント協会会長の西田壽代・看護師を取材した。
足は「第2の心臓」、足を診れば全身が見える
人間の動脈、静脈、毛細血管をすべてつなぐと約10万km、地球を2周半する。動脈は心臓が送り出した酸素や栄養素を全身の臓器や組織に運び、静脈は二酸化炭素や老廃物を回収して心臓に戻る。心臓は体内のエネルギーの供給と排出を一手に担う血液循環の立役者だ。
血液の量は体重の約8%なので、体重60kgの人なら約4.8ℓ。心臓は1分間に60~80回心拍し、1回の心拍で約60mℓ、1分間で約4~5ℓの血液を送り出すため、血液は約1分間で全身を一循している計算になる。
ただ、下肢を流れる静脈は上肢の静脈と異なり、重力に逆らって血液を押し上げ、心臓に戻さなければならない。この筋ポンプの機能を果たすのが足だ。
下肢には全身の筋肉のおよそ3分の2が集まっているので、歩いて足を動かせば、ふくらはぎの腓腹筋やヒラメ筋の伸縮運動が活発になって血流が促されるために、下肢の血液が心臓に戻りやすくなる。このポンプ機能と血液の逆流を防ぐ静脈弁の働きよって、足は血液を体内にくまなく循環させることができる。
つまり、歩けば歩くほど下肢の筋肉が強くなり、呼吸する回数や酸素吸収量も増えて心臓も強靭になる。血行がさらによくなれば、大脳の血流もよくなり、頭の働きが活発になる。足はまさに「第2の心臓」、健康の基幹エンジンだ。
「足は全身の病気が見える窓。心臓からもっとも離れているのに、全身をめぐっている血管や血流の状態がはっきりと現れる場所なのです。ですから、フットケアでは、足の手入れとトラブルの予防・早期発見が何よりも大切になります。日々の忙しさに追われ、気づかないうちに足のトラブルを抱えている働き盛りの人にこそ、フットケアの重要性を知ってほしいですね」と西田看護師は強調する。
日本フットケア学会設立への参加、駿河台日大病院フットケア外来の立ち上げ、さまざまな診療科の専門家との連携ネットワークづくり、海外のフットケア現場の視察など多彩な実践活動を重ねながら、フットケアのシステム化に取り組んできた西田看護師。20年間にわたって、皮膚・排泄ケア(WOC)認定看護師として現場を歩き、血流・神経・免疫機能の障害が原因で深刻な下肢のトラブルを抱えた患者や、下肢切断に至る患者などを目の当たりにしてきた。
現在もフリーランスの看護師として、全国の大学病院や高齢者施設などに駆けつけ、糖尿病患者、透析患者、認知症患者、障がい者、虚弱高齢者の巻き爪や肥厚・変形した爪、タコやウオノメなど、介護職員だけでは対処がむずかしい足や皮膚のケアをレクチャーし、靴の正しい選び方や履き方を丁寧にサポートしている。
「これまでのフットケアへの一般的な認識は美容的な側面が強かったですが、医療機関で行うフットケアは、足のスキンケアから、足の病変の早期発見、治療靴や中敷きまでをトータルケアとして実施します。足のトラブルは重症化すると手遅れになるので、予防や異常の早期発見に看護師が果たす役割はとても大きいですね」。フットケアは介護と健康の原点、それが西田看護師の持論だ。
糖尿病や動脈硬化症はなぜ恐い?
たとえば、肥満や糖尿病が進行して重症化すればどうなるのだろうか? 「タコやウオノメ、靴ずれなどの場合は、患部にえぐられたような潰瘍ができたり、黒く変色したり、悪臭がしたりしますが、神経障害、下肢閉塞性動脈硬化症による血流障害、感染症などの合併症につながるケースも少なくありません。その結果、下肢全体の血流がさらに悪化し、下肢切断という最悪の事態を招く恐れもあり、決してあなどれません」と西田看護師は強く警告する。
このような過酷な事実を知れば知るほど、生命を救うフットケアの緊急性が理解できるはずだ。では、どうのようにすれば足と全身の健康を守れるのだろうか? 次回は、「フットケアのセルフチェックリスト」を活用して、チェックしてみよう。
(インタビュー・文=佐藤博)
註*下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)とは、主に下肢の動脈に動脈硬化が起こり、動脈が狭くなるか詰まることによって下肢を流れる血液量が不足し、痛みを伴う歩行障害が起き、重症の場合は下肢の壊死(えし)に至る血管病。
西田壽代(にしだ・ひさよ)
聖路加看護大学看護学部看護学科卒業。足のナースクリニック代表、一般社団法人 日本トータルフットマネジメント協会(JTFA)会長。聖路加国際病院、東京海上ベターライフサービス株式会社、駿河台日本大学病院を経て2010年に足のナースクリニックを設立。病院や高齢者施設と提携し、フットケアや皮膚・排泄ケア(WOC)分野のスタッフ教育や患者ケア、同職種・多職種連携のコーディネート、講演・執筆活動でフットケアの普及・啓蒙に努めている。日本フットケア学会副理事長を10年務め、現在は常任理事。『はじめよう!フットケア第3版』(日本看護協会出版会/監修)ほか著書多数。
★足のスキンケア、ヘルスケア、シューズケアについての問合せは
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