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【連載第3回 グローバリズムと日本の医療】

オバマケアを斬る なぜアメリカには国民皆保険制度がなかったのか?

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オバマケア法は米国民の賛否両論があるなかで発効された Chris Parypa Photography / Shutterstock.com

 2010年3月、「患者保護と妥当な医療に関する法律」、通称「オバマケア法」が発効された。アメリカで初めて、国民皆保険にかなり近づく画期的な法律だと言われている。

 今回から何回かにわたって、オバマケアをさまざまな側面から分析し、日本の医療制度が学ぶべき点や学んではいけない点を検討してみたい。第1回目は、アメリカの無保険者のこと、および日本のような国民皆保険が導入し難い理由を検証する。

2億5000万人もの人が自発的に医療保険に加入している

 アメリカには医療において、国民皆保険制度はない。5000万人程度(人口の約16%)が無保険者だと言われている。世界トップクラスの医療費を使いながら、これほど多くの無保険者がいる国として、否定的に見られることが多い。

 しかし、視点を変えれば、肯定的な評価もできる。アメリカは、国民皆保険制度、つまり、国家による強制がないにもかかわらず、2億5000万人程度(人口の約84%)が何らかの医療保険を持っている国なのである。5000万人の無保険者を強調するのか、2億5000万人もの人が自発的に医療保険を持っていることを強調するのか、それによってアメリカの医療制度の評価も異なってくる。

 この問題を検証するにあたって、大きな疑問が2つ挙げられる。

①なぜ2億5000万人もの人が自発的に医療保険に加入しているのか。
②なぜ、強制的に5000万人の無保険者問題を解消する、日本のような国民皆保険制度が導入できないのか。

 実は①と②は密接に関連した問題であり、①の答えが、日本のような国民皆保険の導入を難しくしているのである。

 アメリカには、公的医療保険として、65歳以上の高齢者と全永久就業不能者・末期腎不全者等を対象としたメディケアがあり、2010年末では約4750万人が加入している。また、低所得者に対する公的医療保険としてのメディケアがあり、2014年の会計年度において約6400万人の加入者があった。さらに、これらのメディケイドに加入するほど低所得ではないが、民間医療保険を購入できるほどの余裕もない家庭の、19歳以下の医療保険を持たない子供に対する公的医療保険として、州子供医療保険プログラムがあり、2008年の資料では360万人程度の子供が加入していた。

 上記以外は、基本的にすべて民間医療保険を利用している。アメリカで最も多い形態は、職場を通じて医療保障を受けることだ。アメリカでは医療費、医療保険料が高額なので、勤務先を通さず、個人が直接、保険会社と契約を結ぶことは少ない。したがって、「雇用―安定収入―医療保険」がセットになっているのである。

 しかも、日本のように、雇用主と従業員が保険料を折半することが決まっているわけではない。雇用主が全額負担する場合もあれば、雇用主:従業員=8:2や7:3といった割合が多い。1:1や従業員のほうが高い掛金比率というのはまれである。

第二次世界大戦期に職場を通じた医療保障が拡散

 このような職場を通じた医療保障は、第二次世界大戦の産物である。当時のローズヴェルト政権がインフレ抑制のために賃金凍結を行った見返りに、従業員への福利厚生の一環として、雇用主が職場医療保険を従業員に付与するようになったのである。これ以降、職場を通じた医療保障がアメリカでは一般的になった。

 このようにして、政府が公的医療保障を全国民に与えようとする前に、職場を通じた医療保障が一般的になっていった。すると、すでに医療保険を持っている中間層は、低所得者に医療保障を与えるために、税金や社会保険料を支払って新たに公的医療保険制度を作るインセンティブが無く、国民皆保険制度には反対の立場だった。どうして、新たな税金や社会保険料を支払って、現在享受している医療保障よりも恐らく質的に悪くなる公的医療保険を作る必要があるのだろうか。

 換言すれば、第二次世界大戦期に職場を通じた医療保障が拡散していったことが、全国民を対象とした公的医療保険制度ができなかった大きな理由である。さらに、国民の心情として、政府の介入を社会主義的だと嫌悪したこと、アメリカ医師会や保険業界等の強力な利益団体が反対したことなどの理由が重なり合って、国民皆保険制度はできなかったのである。

連載「グローバリズムと日本の医療」バックナンバー

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