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封切り前情報 『ハイヒールの男』 女性の心を持つ"最強の男"の葛藤を描く、異色の韓国ノワール

二つの性の狭間に生きる苦悩

 精悍なマスク、完璧な肉体、並外れた強さを持つ刑事ユン・ジウク。その暴力性から犯罪組織のボスからも恐れられる存在だ。しかし、彼は大きな秘密を抱えている。それは「女性になりたい」という願いを持っていることだった。

 物語はジウクが組織の会合場所に一人で乗り込み、敵を次々となぎ倒していくシーンで幕を開ける。ここで、彼の戦闘能力の高さと、悪には容赦しないという無慈悲な一面を強く印象付ける。だからこそ彼の内部にある女性性が垣間見える時、余計にその対比が際立つのだ。

 やがて彼(ここでは敢えて"彼"を使う)は葛藤を終わらせ、自分の本当の性に忠実になるためにある決意をする。だが、逃れられない過酷な運命がそれを阻み、一度は抜け出した血と暴力にまみれた世界に戻ることになってしまう。

 犯罪組織のNo.2からは"男の中の男"と呼ばれ、同僚には潜入捜査時の女装を酒の席のネタにされるジウク。女性ホルモン注射を打ち、性転換者にアドバイスを受けるほど自分の性に違和感を持つ彼にとって、そうした周囲の言動は苦痛でしかないはずだ。

バイオレンスと性同一性障害という一見相容れない要素を掛け合わせ、全編にヒリヒリした感覚が漂う本作。主演のチャ・スンウォンは、"最強の男"と言われながらも、自分の心にある女性性を抑えきれない刑事という難しい役柄を見事に演じきった。凄惨な闘いに身を投じるワイルドさと、ふとした瞬間に出るしぐさや表情のなまめかしさ。ジェンダーの概念を超え、ジウクという一人の人間の個性がそこにある。

心の痛みを忘れるために身体を傷つける

 彼が肉体を鍛え男らしく振舞っているのは、自分の中の女性性を認めるのがいやで、その"女"を殺したかったからだ。彼にとって世の中は、どれほど生きづらい場所だったことか。心の苛立ちを刻むように、ジウクはナイフで身体に傷をつける。血を流すことで心の痛みから逃れようとしているかのように。

 彼にふりかかる悲劇的な事件は、その後の人生に大きな影響を与える。この結末をどう取るかは、観る者に委ねられるだろう。

 韓国では性同一性障害の人に対して、2002年に初めて戸籍上の性別の変更が認められたという。日本でも2004年に、一定の要件を満たせば戸籍上の性別を変更できる"性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律"が施行された。

また、教育現場でも理解を広める試みが始まっている。2014年の文部科学省の調査では、一部の学校ではあるが、対象生徒に職員トイレや多目的トイレの使用を認めたり、更衣室代わりに保健室を利用させたりという配慮を行っていることが分かった。しかし、国内にはまだ治療や診断のできる専門医療機関が少なく、周囲の人々の認知、理解も十分とはいえないのが現状だ。

 ジウクの苦悩の一端は世間の無理解にある。"ありのままの自分"を肯定する歌が社会現象になるのなら、なぜ"ありのままの他人"は許容されないのか。その矛盾に気づかないのなら、この世界はどこかおかしい。
(文=編集部)

※注:厚生労働省は性同一性障害の定義を"生物学的性別と自らの性別に対する認知であるジェンダー・アイデンティティが一致していない場合"としているため、ここでもこの単語を使用した。

『ハイヒールの男』
2014年/韓国/カラー/ビスタ/デジタル上映/125分
監督:チャン・ジン
出演:チャ・スンウォン、オ・ジョンセ、イ・ソム、コ・ギョンピョ
配給:クロックワークス
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2月14日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷にて、3月29日(日)よりシネ・リーブル梅田にて公開!【未体験ゾーンの映画たち2015】上映作品

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