よくテレビなどで2重人格の人物が主人公となっているドラマを見ます。このような人を医学的には「解離性同一性障害」と呼びます。そしてこの2重人格を持っていることに気づかないままドラマが進んでいきます。そして最後に事件を起こしていた自分に2面性に気づかされる設定が定番です。
実は、頭痛にも"頭痛の2重人格"というものがあります。といっても精神の病気の話ではなく、頭痛を2種類持っている方という意味です。言い換えると複数の頭痛が混在し、痛みの違う、異なった頭痛を2種類、3種類と持っている方がすくなからずいるのです。ところが、自分に複数の頭痛があることを認識して、治療の対応されている患者さんはあまり多くありません。
以前お話しした1次性頭痛(機能性頭痛)1)と呼ばれる頭痛は、「片頭痛」以外にも「筋緊張型頭痛」、「群発頭痛」が知られています。このうち筋緊張型頭痛は本当に多くの患者さんが経験される頭痛です。頭痛持ちの人の頻度で言えば、緊張型頭痛は、生涯有病率は30−60%と、人口の約半数の方が人生に1度は経験する頭痛と言えるでしょう。また別の報告では緊張型頭痛の有病率はわが国では1年間で22.4%(約2800万人:男性18.1%,女性26.4%)、全頭痛の56.3%という、もっとも頻度の高い頭痛2)です。
緊張型頭痛は、肩こりの多い女性などが肩の緊張状態が続くことから起こってくる頭痛とされています。女性は肩や頸の筋肉量が男性より少ないため、姿勢が悪いと極度に頸の筋肉に負担がかかることになり、それがこの病気の原因のひとつとされています。その中には当然、筋緊張型頭痛と片頭痛の両方をお持ちの方がいるのです。
片頭痛も同居して合わせ持っている方が多数いることは、頭で考えると想像できるのですが、正確に自分の頭痛の種類が複数あることを、医師に説明できる患者さんはあまり多くはいません。そのことで後の治療法選択の場合に、ミスマッチが起きる可能性があります。
通常は、一度に2種類の頭痛が同じ時間に同時に起こることは少なく、緊張型頭痛に続いて、片頭痛が起こることや、まったく別の時間に2種類の頭痛が起こっていることが多いと思います。
頭痛持ちの方は、若い時から継続的に頭痛が続くので、1度は医療機関を受診している場合がほとんどです。しかし、医師の中には頭部MRI検査、頭部CT検査などで異常が見つからなければ、緊張型頭痛と診断し、そこで通院治療を終了してしまう先生が多いことも事実です。また患者さまも検査をして異常がないことで安心を得て、受診を終了してしまうことも多いのです。
しかし、緊張型頭痛は、頭痛の種類と経過を示した(図2)のように、軽い緊張型頭痛が単発で起こる場合は、問題ありませんが、緊張性頭痛に続いて、ひどい片頭痛を起こすことや、同時に合併する患者さんもよく経験します。その中には、いつもの緊張型頭痛であると考えていても、後になって脳卒中やがん、副鼻腔の炎症など病気が見つかることもあります。
特に2次性頭痛の中でもクモ膜下出血や脳卒中を、新規に起こすこともあるため、突然に普段と異なった頭痛(特に警告頭痛・雷鳴頭痛3))が出できた場合は、すぐに専門医を受診してください。
今回は、"頭痛の2重人格"について説明しました。自分の頭痛を知ることが、自分の頭痛の予防や治療に役立つことが多くあります。自分の頭痛の種類がいくつあるかについて知っておけば、もう頭痛は恐くありません。
2月22日は、日本頭痛協会の定めた「頭痛の日」です。頭痛の初期に適切な治療をすること、つまり「頭痛の芽を摘もう」というのが、2015年頭痛の日の趣旨になっています。自分の頭痛の種類を知ることは、自分の頭痛の早期予防や早期治療に役立つことになり「頭痛の芽を摘む」につながると思います。
1)1次性頭痛とは、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛の大きく3つに分類されます。生命に関わるクモ膜下出血による頭痛などは2次性頭痛に分類されます。(詳細は病気の知識)
2)医学のあゆみ 濱田潤一 243巻13号 2012年 p.1024-1030
3)特に痛みが強く、突然カナヅチで頭を叩かれたように強い痛みを感じる場合には(警告頭痛・雷鳴頭痛)と呼びます。2次性頭痛の中でもクモ膜下出血などの脳卒中の可能性の高い頭痛とされています。