アルツハイマー病の治療薬はいつ?shutterstock.com
現在、日本で承認されているアルツハイマー病(AD)の治療薬は、「ドネペジル」、「ガランタミン」、「リバスチグミン」、「メマンチン」の4剤。いずれも症状の進行を抑制する抗認知症薬で根本治療薬ではない。またアルツハイマー病の発症要因とされるβアミロイドの凝集・蓄積をターゲットにした新薬の臨床試験で十分な効果を得られていないという現実がある。
クリーブランド・クリニックの研究者たちは史上初めてアルツハイマー病の臨床試験を分析し、その結果を「アルツハイマー病の薬剤開発パイプライン:候補薬剤の少なさと度重なる失敗」というレポートとして発表、『 Alzheimer's Research & Therapy 誌』に発表された。それによるとアメリカで2002年から2012年までの10年間では、アルツハイマー病の薬剤開発の失敗率は実に99.6%になっているという。
この研究は現在進行中の全ての臨床試験を登録している米政府のウェブサイト
『Clinicaltrials.gov』を使用して、2002年からの全ての試験を調べる包括的分析を構築した。結果として413件のAD臨床試験のうち薬までたどりついたのはたった0.4%で、99.6%が失敗に終わっていると分かった。しかも試験対象のとなった薬剤の数が、2009年以降減少していると指摘している。
アルツハイマー病は、脳にアミロイドβというタンパクが蓄積し、そのあとからタウというタンパクがたまりだし、神経細胞が壊れて脳が萎縮していく。この「アミロイドβ」と「タウ」という二つのタンパクを、いかに早く見つけて、ためないようにするかが、治療のカギとなるところまでは解明されつつある。しかし、病態が十分にわからないため、決定的な治療方法が未だに見つかっていない。
世界的に困難となっている新薬開発
このデータからアルツハイマー病が治療困難な病気であるというイメージだけが浮き上がってくるが、ことはそう簡単ではない。実は、世界的に新薬開発の行き詰まりが問題になっているのだ。世界の医薬品市場規模は約80兆円(2006年)といわれている通り実に巨大な市場だ。製薬企業がこの市場を狙わないわけにはいかない。しかし、新薬を研究開発し発売するために必要なコストは数百億円といわれる。研究開発にかかる費用は年々増えているのに反して、認可される薬はすくない。
世界各国で医薬品開発に1年間に使われた費用は1975年には40億ドルだったものが、2009年には400億ドルと10倍になっているというデータがある。一方で1年間に認可された新薬は1976年は26個で2013年は27個と変わらない。つまりコストが10倍に跳ね上がっている。さらに欧米だけのデータでは、新しい薬効成分(シーズ)が発見されてから薬として認可されるまでの期間が1990年代には平均9.7年だったものが、2000年代は13.9年に延びている。
もちろん既存の薬で病気がコントロールできている場合は新薬の開発は必要がないため、既存薬で病気が治療できていない領域の薬を開発しなければならない。基本的疾患の治療薬が出揃っている現在、残されているのはがんやアルツハイマー病、さらには多くの難病の治療薬などだ。こうした病気は病態の正確な解明がなされていないため、臨床試験で失敗するリスクが高い。さらに国際的な市場を目指すためには、国際共同治験なども必要で、そのコストは莫大だ。
アメリカの医療経済では、アルツハイマー病は心臓疾患やがんなどよりコストがかさむといわれている。そのためクリーブランド・クリニックでの研究では、「世界中では推定で4,400万人の人々がこの疾患に罹患しており、問題の大きさを考えるとアルツハイマー病の薬剤開発には更なる支援が必要であることをこの研究は明らかにしている。」と述べている。つまりもっとお金がかかると社会に訴えているのである。
この研究の対象となった2002年~2012年までの10年間のど真ん中にリーマンショックがある。アルツハイマー病の研究が勢いを失ったのではなく、この時期の経済的背景から資金調達が困難になって試験数が減ったと見ることもできる。
昨年は新薬をめぐる医療機関や製薬会社のデータ改ざんや不正の隠蔽などが大きく報じられた年だった。今年も創薬をめぐる製薬メーカーの環境は厳しい。あくまでも原則は患者の治療に寄与する薬の開発であることを忘れないで欲しい。
(文=編集部)