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世界中どこにでもいるウイルスが、密かにヒトの頭を悪くしている!

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人間の脳に感染し認知能力を低下させるウイルスが!? shutterstock.com

 暗算ができない、文章を何度読んでも理解できない、モノの名前が思い出せない。そんなとき、「頭の悪いのは生まれつき」「もう年だからしかたない」と自嘲気味になっていないだろうか? でもそうではなく、未知の微生物があなたの脳に忍び込み、頭を悪くさせているとしたら......。

 そんなSF小説のような事実が、先日アメリカで明らかになった。あるウイルスに感染すると、脳の海馬が影響を受けて人間の認知能力が低下してしまうというのだ。

全世界で数百万人が感染!?

 問題のウイルスは、世界中の湖や川に存在する「ATCV-1」と呼ばれるもの。もともと緑藻類に感染することで知られており、人間には感染しないと考えられていた。しかし、今回たまたま認知機能の測定を含む研究を行っていた科学者グループが、健康な人の喉からATCV-1を採取。なんと被験者92人のうち40人、実に44%の人が感染していると判明した。そうなると、すでに世界で数百万人が、このウイルスに感染している可能性も否定できない。

 さらに被験者に対して、視覚情報の処理速度と正確性、集中力の持続を測定。その結果、喉からATCV-1が採取された人は採取されなかった人に比べて、それらの成績が劣ることがわかったという。

 たとえば、紙に書かれた数字の順に線を引いていく速さを測るテストで、陽性グループは平均9ポイント、注意力を測るテストでは平均7ポイントも、陰性グループより成績が悪かった。他のテストでは大幅に低い結果を出していない一方で、それらの数値ははっきり認められるほど低かったという。

 研究グループはさらに、マウスをATCV-1に感染させて影響を観察。ATCV-1を注射したマウスと、そうでないマウスを迷路の中に入れたところ、ATCV-1を注射したマウスは抜け出すのに時間がかかるうえ、新しくできた障害物や出口に気づかない傾向があった。

 なぜそういうことが起きるのか。ウイルスに感染したマウスの脳を調べてみると、ATCV-1はマウスの海馬に影響を与え、記憶や学習能力、シナプスの可塑性に関わる遺伝子を書き換えていることがわかった。研究者は人間とマウスを直接リンクさせることは危険だとしながらも、空間認識力などのテストで似た結果が出たことは興味深いと述べている。


脳だけに影響を与えるウイルス

 インフルエンザのように体にダメージを与えて去って行くウイルスもあるが、ATCV-1の感染者は一見すると「健康」だ。免疫系を攻撃することなく、人体に影響を及ぼす微生物の存在が証明されたのは初めてだという。

 研究を行ったRobert Yolken教授は「これは"無害"の微生物が人間のふるまいや認識能力に影響を及ぼす顕著な例です。人体を痛めつけずに影響を及ぼすウイルスはほかにもあるはず」と語る。

 ちなみにATCV-1の感染経路はまだ確認されていないため、湖や川で泳ぐのをやめても感染を防げるかどうかはわからないという。

 私たちの何割かは、このウイルスのせいで頭が悪くなっているのかもしれない。それは確かに怖いことだが、ATCV-1のさらなる研究は人間の認知能力が低下するメカニズムや、それを抑制する薬の開発に結びつかないだろうか?

 感染したマウスは、ドーパミンに対する脳の反応を調整する遺伝子も影響を受けていたという。脳内で分泌されるドーパミンは、人間の学習の強化因子として働く物質で、欠乏するとパーキンソン病などを引き起こす。こうした脳神経系の病気の治療につながるとすれば、画期的だ。

 いずれにせよ、今回の発見はまだ端緒に過ぎない。感染経路、予防や治療に関してさらなる研究が待たれるところだ。
(文=編集部)

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