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【連載第1回 いつかは自分も……他人事ではない“男の介護”】

「ケアメン」130万人超時代に突入! 気になる男性介護者の実態は?

 「介護」なんて自分にはまったく関係ない、いざとなったら妻がなんとかしてくれるだろうと高をくくっている中高年の男性に、驚くべき数字を紹介しよう。誰も代わってくれる人がいないメインの男性介護者は、現在、130万人を超えている。全介護者の3人に1人は男性が占めているのだ。男性が介護の担い手になるのはもはや珍しいことではなく、30代、40代の男性も今から覚悟をしておいたほうがいい。

 平成25年『国民生活基礎調査の概況』(厚生労働省)によると、要介護の人と同居している主な介護者は411万9,000人、そのうち男性は131万3,000人で31,8%を占めている。

 介護をする男性と聞けば、実家で母の介護をする父の姿や、きょうだい、親類、ご近所の人、同僚、友人などが案じられる人もいるだろう。その実態やいかに?

 別の数字を見てみよう。同居の男性介護者の続柄を見てみると、要介護者の配偶者(夫)が59万6,000人、子(息子)が58万6,000人。ぐっと人数が減るが父母(6万6,000人)やその他の親族(5万5,000人)が介護をしている場合も少なくない。そして、子の配偶者(要介護者から見ると娘婿)は1万人と少数派。女性を見ると、配偶者(妻)は107万6,000人、子(娘)は64万2,000人、そして、子の配偶者(つまり嫁)は51万8,000人となっている。

 要介護者本人から見ると、嫁より配偶者や実子から介護されることが多いことが明らかになっている。

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嫁より配偶者や実子から介護されることが多い時代に 出典:「平成25年 国民生活基礎調査」(厚生労働省)

明日は我が身の男性介護

 今でも日本の介護の3分の2は女性の手で担われているが、わざわざ「女性介護者」と呼ばれることはない。認知症や難病、寝たきりなどの家族を介護するのは、一昔前までは長男の嫁の仕事と考えられていた。女性の手にゆだねられることが一般的だった。しかし、かつて半数を占めていた子どもの配偶者(嫁)による介護は全体の1割に激減。その分を夫や息子が担うことになった。今や介護者トレンドは配偶者と実の子どもたちだ。

 2009年、介護する男性を対象に男性介護者と支援者の全国ネットワーク(男性介護ネット)が発足し、徐々に男性の介護者が注目を集めてきた。積極的に育児を行う「イクメン」が市民権を得たのに倣い、同ネットワークでは介護する男性を「ケアメン」と名付けた。以降、各地で「ケアメン」のグループができ、ケアメン講座などのイベントが開かれるようになった。

 それまで生き馬の目を抜くビジネス社会の中で競争してきた男たちが、男性介護者の交流会では自分の弱さをさらし、弱さを讃えあうような微笑ましくもたくましいシーンに出会うことが少なくない。

 身体介助や排泄などの介護のほか、食事を作ったり片付けたり、洗濯・掃除など慣れない家事も男性の肩にのしかかってくる。特にはじめての介護では、戸惑いや苦労がいつもつきまとう。男性に顕著に見られるのが、ビジネスのように目標を設定してひたすら成果を追い求める介護スタイルだが、相手が人間であるだけに介護は自分の思い通りにならないもの。ここでジレンマを感じる男性も少なくなく、さらにこのスタイルが社会との関わりを疎遠にし、孤立に向かわせる。

連載「いつかは自分も......他人事ではない"男の介護"」バックナンバー

津止正敏(つどめ・まさとし)

立命館大学産業社会学部教授。1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学大学院社会学研究科修士課程修了。京都市社会福祉協議会に20年勤務(地域副支部長・ボランティア情報センター歴任)後、2001年より現職。専門は地域福祉論。「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」事務局長。著書『ケアメンを生きる--男性介護者100万人へのエール--』、主編著『男性介護者白書--家族介護者支援への提言--』『ボランティアの臨床社会学--あいまいさに潜む「未来」--』などがある。

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