MENU

【検証 菅政権はなぜコロナに負けたのか③】

感染対策に逆行した1年の結末は? 首相の思考力に致命的限界も

GoToと共通する失敗の構図

 パラリンピックの閉会式は同5日。東京五輪・パラリンピックの開催を強行した菅首相の政治生命は、実質的にこのビッグイベントの期間終了まで持たなかったのだ。この事実に改めて驚く。そして、それは単なる偶然ではない。
 
そもそも菅首相はコロナの世界的な感染拡大のまっただ中で、世界中から選手を集め、五輪を開催するという常識外れなことをやり、感染爆発と医療崩壊を起こした。国民から支持を失い、横浜市長選で惨敗し、最後は首相の座から放り出される大失態を演じた。
 
この構図は昨年末のGoToトラベル政策の破たんと同じではないだろうか。感染症がまん延する中で、税金を使って旅行=人の移動を奨励するという常識に反することをやり続け、最後は中止に追い込まれ、それまでの過去最大の感染者数を記録し、緊急事態宣言の発令に追い込まれた。
 
われわれはコロナ対策に逆行する経済優先政策を5カ月も続けた社会が、その後8カ月にわたって今現在も社会的、経済的機能の麻痺に苦しむ現実を見せつけられている。国民のメッセージに目を向けることなく、非常識なプロジェクトを強行した男の最後がどうなるかも目の当たりにした。

科学的思考と危機管理の欠落

 菅政権はなぜコロナに負けたのか。それはコロナと正面から対峙せず、GoToトラベルや五輪・パラリンピックの開催という感染症対策に逆行する政策に血道を上げたからだ。それも首相に就任してから退陣表明をするまでの全期間にわたって。これでは、コロナに勝てるわけがない。
 
 ただでさえ、日本のコロナ対策は貧弱だ。先進国として恥ずかしいレベルにあるPCR検査体制、ザルにしか見えない甘い検疫体制、国産ワクチンや特効薬の開発加速など、改善すべき課題は多い。「言われなければやらない」「言われてもやらない」など不作為を繰り返す厚生労働省、特に医系技官と言われる官僚機構の改革も喫緊の課題だろう。
 
 だが、菅政権のコロナ対策はそれ以前なのだ。菅首相は「国民の命と暮らしを守る、この一心で走り続けてきました」(9月9日記者会見)と言いながら、実際はGoToや五輪開催にかまけてきたのだ。それによって本来のコロナ対策は、まったく科学と危機管理が欠落した劣悪なものに成り下がっている。

総裁選と衆院選で問われるもの

 菅首相が総裁選に出馬しなくなったことで、自民党総裁選は岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、河野太郎行革担当相、野田聖子幹事長代行の4人が出馬する事態を生み、「世代交代」がテーマとなった。ここまで急展開したのは五輪強行に対する国民の「反乱」と横浜市長選で示された民意の結果だ。安倍-麻生連合と二階・菅連合の闘いとも言われるが、突き詰めると、コロナ対策を歪める主因となった「東京五輪の1年延期とその実施」を強力に押し進め、総裁選でも大きな影響力を持つ安倍前首相のくびきから脱却できるかどうかが「世代交代」の意味であり、総裁選の焦点だ。
 
 自民党が今後のコロナ対策も含めて国民の声に応えなければ、総裁選直後にやってくる衆院選で国民から大きなしっぺ返しを受けるだろう。野党は自民党の8年9カ月を総括し、科学的かつ情報公開と説明責任を果たすコロナ対策と、民主主義の原点に立ち返った大胆な政策の転換を打ち出す必要がある。同時にこれまでなかなかできなかった選挙協力を実現し、一枚岩になって自民党に立ち向かわなければ、自民党に勝つことはできない。安倍・菅政治の「コロナ敗戦」は、日本の政治に大きな転換点をもたらそうとしている。
(文=荒木健次/ジャーナリスト)
検証 菅政権はなぜコロナに負けたのか➁
検証 菅政権はなぜコロナに負けたのか➀


関連記事
アクセスランキング
専門家一覧
Doctors marche