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新型コロナ PCR検査をクラスター追跡と重症者のみに固執する厚労省(続)

3.PCRセンターの問題点

 PCRセンターは保健所ルートの検査キャパシティーがない分をカバーして大いに役立っているのだが、いくつかの問題点を抱えている。各区の医師会に所属の開業医や診療所のスタッフが当番制で出向いていって業務にあたっているところが多く、医師会員とスタッフの有志によって支えられている。あくまで急場しのぎであって、長期にわたって維持し続けられるものではないことが問題だ。もう一つの問題はそれぞれの区によってPCRセンターの設置方法や規模がまちまちなことだ。多くは医師会と区が共同で開設しているが、中野区などは保健所が保健所敷地内にPCRセンターを設置していてセンターの運営に参加している珍しいケースだ。杉並区は4つの基幹病院の中に検査スポットがあるだけで狭義の意味でのPCRセンターは存在しない。ちなみにPCRセンターでの検査費は都が全額助成しているので無料で受けられるが、PCRセンターの運営にかかる人件費や設備費は区が出費しており、数千万円から億単位の出費を余儀なくされている。
 
 PCRセンターの最も大きな問題点は、各区によって検査キャパシティーがバラバラであることだ。報道によれば世田谷区では1日に300件、新宿区あたりでも数百件の処理能力があるようだが、杉並区では70件、中野区では60件、練馬区ではかつて存在したPCRセンター(6月いっぱいで閉鎖)の1日の処理数は40件であった。また、多くのPCRセンターは毎日検査できるわけではなく、平日の2~3日間で検査時間も限定して行われている。多摩地区などの都下ではPCRセンターが設置されていない市町村も多く、PCRセンターが設置されているのは都心部に隣接する武蔵野市、三鷹市、調布市、あるいは八王子市など一部の市に限られている。
 
 これらPCRのセンターとは別に大学病院や研究部門を備えた総合病院などもPCR検査に協力しているが(例えば板橋区の日大板橋病院は1日60件までの検査を実施している)、すべての区市町村にこういう施設があるわけではない(これらの施設が上述した東京都の分類の(2)に属するか(3)に属するかは不明)。
このようにPCRのキャパシティーは地域によってまちまちであるのに各区の行政は基本的には独立していて横のつながりがなく、区によっては原則区民限定としているところもある。もともと草の根運動的に発足したシステムなのでやむを得ないところではあるが、やはり東京都がリーダーシップをとって地域差を補う総括的なシステムを構築しないかぎり検査難民は後を絶たない。

5.唾液のPCR検査の実態

 筆者が所属している練馬区では、この2週間ぐらいの間に診療所で実施できる唾液のPCR検査が急速に広がっている。練馬区医師会が東京都と集合契約を結ぶことによって診療所での行政検査が実現した。とはいえ保険適用で行う検査と位置付けられており、健康保険の支払い割合によって患者さんの自己負担がある(東京都からの一部助成される)。都との集合契約はすでに多くの区市で締結されており、また東京だけでなく埼玉、千葉などの関東エリア、さらにはら全国に急速に検査体制が拡大しつつあるとのことだ。

6.唾液PCR検査のメリット・デメリット

 基本的には健康保険適用の検査なのだから、病気の人、すなわち何らかの症状がある人だけが対象で、無症状の人(濃厚接触者を含む)や公衆衛生対策の要望からの検査(クラスター追跡など)は含まれないはずである。これらに該当していてもひとたび症状が出てくれば医療の対象になる。

検査方法は非常に簡単で患者さん自身で速やかに採取してもらえるので、医療関係者の感染のリスクもほとんどない。ただし、70歳上の方は唾液が少なくて必要量(約2cc)がなかなか取れないことがある。小学生以下の学童なども採取がなかなか難しく、鼻咽頭粘膜からの通常のPCRの方が望ましい。

感染症法の指定感染症のために検体の運搬には指定の3重容器に梱包して運ばなければならない。この運搬用の容器が急激な需要の拡大によって既に在庫不足の状態に陥っていて、当院でも今週オーダーした50検体分の容器が入荷されない。特にバリアパウチと呼ばれる2次容器を作成しているのは全国で1社のみで、製造が追いついていない(ちなみに行政検査でありながら容器代約2000円は診療所の持ち出しになっている。)

指定感染症という縛り付けを解除すれば、自宅での検体採取や郵送による運搬も可能になり、簡便に検査ができるようになる。これまで在宅介護の高齢者などはPCR検査が受けられない状態のまま切り捨てられてきたが、唾液のPCRなら容易に検体を提出することができる。どうしても感染症法の枠を外さないのなら市町村が巡回バスなどで検体を回収をするシステムも検討されてしかるべきだと思われる。PCRセンターの項目では区ごとの縦割り行政の弊害と東京都のリーダーシップの期待について言及したが、東京都の対応が遅いのであれば、せめて隣接する区同士が相互乗り入れ制度を検討してもよいだろう。

最後に、現在の少なくとも東京においてPCR検査を支えているのは地方自治体それも市区町村であり、国は都道府県に丸投げしていて、東京都も行政検査の認定と検査費の助成は行うものの、実質的な作業はさらに下の市区町村に任せている。このような状況で1日のPCR検査数を10万件から100万件行うことなどは到底期待できない。そもそも厚労省にPCR検査拡大する意思がないことが根本的な問題なのだ。
(文=和田眞紀夫)

和田眞紀夫(わだ・まきお)
わだ内科クリニック院長

※医療バナンス学会発行「MRIC」2020年8月4日より転載(http://medg.jp/mt/)

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