新型コロナウイルスは血管を損傷する病気
新型コロナウイルス(COVID-19)の治療で注目される幹細胞治療。なぜ今幹細胞治療がCOVID-19に有効だと期待されているのか。
これまでに、骨や軟骨、血管、心筋細胞に分化できる能力をもつ体性幹細胞の一つであるMSC(間葉系幹細胞)は抗炎症作用や増殖誘発作用、血管新生促進作用などをもち、組織の修復に重要な役割を果たすことが多くの研究で報告されてきた。また、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞と比較してがん化のリスクが低く、安全性が高いとも言われている。すでに脊髄損傷や造血幹細胞移植後の副作用の軽減などいくつかの治療に使われ始めている。
日本でも昨年実用化され大きな話題となったのが札幌医科大学と医療機器大手のニプロが開発した幹細胞治療。患者の骨髄由来のMSCを使い脊髄損傷の症状改善を期待するものだ。
COVID-19の重症化を引き起こすサイトカインストームとは
COVID-19による幹細胞治療を理解するにはまず、その病態の特徴を理解する必要があると指摘するのは再生医療専門医療機関スタークリニックの竹島昌栄先生。
「COVID-19の病態の最初のステップは、ウイルスの分子がヒトの細胞、特に肺胞細胞や毛細血管内皮の表面、一部の心臓細胞などに広く分布しているACE2(アンジオテンシン変換酵素2)を受容体として感染・増殖し、細胞を破壊することがわかっています。当初COVID-19で重症となったケースの多くは、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が原因だと報告されています。重症化するかどうかに深く関係しているのがサイトカインストームです」
サイトカインとは細胞から分泌されるタンパク質で、細胞の増殖、分化、細胞死、機能発現などを引き起こす生理活性物質の総称。免疫や炎症に関係したものが多く知られている。重症例に深くかかわっているサイトカインストームとはどんなものなのか。
いまだ解明されていない部分も多いと前置きしながら竹島先生は次のように説明する。
「よく“免疫暴走”などと表現されますが、ウイルスによって活性化した免疫細胞が過剰なサイトカインを分泌し、それが自身の組織に有害な影響を与え、炎症、腫れ、線維化や機能不全などを連鎖的に促進してしまう状態です。各免疫細胞には特性があり、役割も決まっていますが、過剰なサイトカインによって免疫機構の情報のやり取りに混乱が生じ、パニックを起こしていると理解できます。いわば免疫機構の情報の混乱です。この過程で肺胞細胞が著しく損傷されるとARDSなどの状態に至ってしまいます」
では、サイトカインストームを起こしやすい人はどんな人なのだろう。
「サイトカインストームではウイルスが血管内皮を傷つけるため、血管内皮が弱い方のほうがリスクは高くなります。加齢、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などの既往症がある人でリスクが高くなります」と竹島先生。