避けるために心掛けたいこと
ちなみにポリファーマシーとはある意味ネガティブなワードであるため、主治医に対し単刀直入に「私の薬はポリファーマシーになっているのでは?」などとは聞かないほうがよい。聞かれることで気分を害する主治医もいるだろう。しかし薬剤数が多いと感じる人には一度主治医としっかり相談することをお勧めする。医師との会話の中で、「薬の数ができるだけ少ない方がありがたい、減らせられるものは減らしてほしい」と一度は伝えておくほうが良いだろう。
薬の調節で「名医」に
最後にある入院患者の例を示す。他院から食欲不振のために紹介入院となってきた80代の高齢患者であるが手持ちの薬は13種類に及んだ。ここ数日ほとんど食事を摂ることができなかったが「真面目に」全ての薬を服用していた。「ほとんど食事は口を通らなかったけど、薬だけは飲まないといけないと思い少量の食事とともに全ての薬は飲んでいたのです。」と言う。薬だけは飲んでいたのです、というセリフに少々力が込められていた。
多数の薬剤の中には今の虚弱状態には不要と思われる降圧薬、さらには食事摂取不良な時には不要と思われる糖尿病の薬、利尿薬などが含まれる。もちろん状態に応じて前医や薬剤師からは説明がなされていると思われるが高齢者であれば十分記憶できていないケースもあるだろう。過去の検査歴などを考慮して入院後に行ったことと言えば数日間の点滴、食べやすい食事の提供、そして現時点で不要な薬剤の中止である。そして患者は見違えるように元気になり4剤の薬剤とともに感謝の言葉を述べられ自宅へ退院となった。
もちろん必要な薬は続けなければならない、そしてその中止、休薬の判断は患者独自にはするべきではない。ただし薬は良いことばかりではなく「クスリはりすく」にもなりうるため日々の診療で主治医としっかり相談できる患者―主治医間の良好な関係を築いてほしい。
<※プライバシー保護のため実例を一部改編しています>
(文=藤川達也)
藤川達也(ふじかわ・たつや)
三豊総合病院総合診療内科部長
1998年岡山大卒。米国ハーバード医科大附属ベスイスラエルデーコネス病院リサーチフェロー、市立備前病院、清恵会病院などを経て現職。
医療バナンス学会発行「MRIC」2019年12月24日より転載(http://medg.jp/mt/)