脳ドックで「わかること」と「わからないこと」
脳ドックでは、未破裂脳動脈瘤(破裂していない脳動脈瘤)、脳腫瘍、脳卒中の既往、症状のない無症候性脳梗塞、脳の萎縮等が分かります。
MRIを撮ったあと「認知症は大丈夫でしょうか?」とよく質問を受けますが、脳の萎縮だけでは認知症と診断できず、今のところ通常のMRI等の画像では認知症の診断はできません。
認知症の診断には、質問形式の検査が必要です。認知症かどうか知りたい場合は、脳ドックの中にMRI等の画像以外に認知機能のテストも入っているかどうか、事前に確かめておくといいでしょう。うつ病なども同様で、質問に応える検査が必要です。
最初の脳ドックの目的は、未破裂脳動脈瘤を見つけることでした。脳動脈瘤が破裂すると「くも膜下出血」を起こします。くも膜下出血を起こすと、3分の1の人は、その場で倒れ、そのまま死亡したり、病院で治療をしても死亡してしまいます。非常に恐ろしい病気です。
破裂するのは突然で、防ぐことができません。一方、くも膜下出血を起こした人のうち幸運な3分の1の人は、治療を受ければ全く障害がなく社会復帰ができます。残りの3分の1の人は、治療を受けてもいろいろな程度の障害が残ります。
未破裂脳動脈瘤は、30歳以上の成人に3%程度に発見され、特に高血圧、喫煙者、脳卒中の家族歴を有する患者では注意を要します(脳ドックガイドライン2014)。
脳ドックを受ける動機に、「ご両親がくも膜下出血で亡くなった」という方が多くいらっしゃいます。実際、家族がくも膜下出血を起こした人で動脈瘤が見つかる確率は、そうでない人の3.4倍という報告があります。また、女性は男性の1.6倍という統計もあります。さらに「脳ドックで未破裂脳動脈瘤がある人で動脈瘤を発見できる確率は90%以上」と言われていて、動脈瘤を発見するためにはかなり有効な手段です。
もし未破裂脳動脈瘤が見つかったら?
では、未破裂脳動脈瘤が脳ドックで発見されたらどうすればいいのでしょうか?
脳卒中治療ガイドライン2015によると、「未破裂脳動脈瘤が発見された場合、年齢、健康状態、患者の背景因子、サイズや部位、形状など病変の特徴、未破裂脳動脈瘤の自然歴、および施設や術者の治療成績を勘案して、治療の適応を検討することが推奨される。なお治療の適否や方針は十分なインフォームドコンセントを経て決定されるように勧められる」と記載されています。
治療法は、全身麻酔で開頭して動脈瘤に行く血液を金属クリップで止める「クリッピング」か、血管からカテーテルを入れて脳動脈瘤へ到達させプラチナのコイルなどを使って動脈瘤に血液を行かないようにする「血管内治療(コイル塞栓術等)」があります。
さて、ここからが本題の「脳ドックの功罪」ですが、それは次回ご説明いたします。
(文=鈴木龍太)