角膜混濁と死斑でさらに死因は絞り込まれる
同時に目の所見もとっていましたね。目は死後数時間を経過すると混濁が始まります。半日から1日で全体的に靄がかかったような状態になります。1日半から2日くらいで強く白濁してきて瞳孔は見えなくなってくるのです。角膜混濁(かくまくこんだく)です。これが起こる原因は、目の乾燥が主原因と言われていますので、目が開いていたか、閉じていたかでも所見は変わってきてしまいます。
そして死斑。これは死後、血液循環が停止すると血管内の血液が重力に従い、身体の下の方へ移動してくるのですが、これが皮膚の表面から見えるようになったものの事です。早いもので死後30分から出現し、5~6時間で著明になり、15時間ほどでピークに達します。
重力が関係しますから、漂流死体では死斑が発現しないことが多いようです。死因によって死斑の色も様々で、第1回で出てきた一酸化炭素中毒ではサーモンピンクになったり、亜硝酸ソーダ中毒などでは灰褐色調、硫化水素中毒などでは緑青色調になったりするといわれています。(実際は教科書通りにはいかない事も多いそうですが……)
これらをうまく組み合わせて考えていくことで、推定死亡時刻が出てくるわけです。
ミコトが見抜いた死斑と皮下出血の混在
今回、死斑と混在して存在していた皮下出血をミコトは見抜きました。法医解剖医には容易なことかもしれません……。皮下出血は、皮下の血管が破綻して出血した状態のことですが、その物自体に色の変化があるので「変色斑」と表現します。
ご遺体の場合、触診が可能であれは変色斑を強圧して褐色に変化すればその変色斑は死斑である可能性が出てきます。ゆえに皮下出血の確定診断は表面を切開して皮下に凝血(血の塊)があることを確認する必要があります。
でも今回は皮下出血=いわゆるあざが、生きているときからあり、ある程度の時間のばらつきの中で吸収してきているものと、そうでないものが混在していたために、わかりやすかった、ということですね。
私たちもできたあざが時間の経過とともに黄色くなるようなことを経験しますね。あれは血のヘモグロビンが時間とともに変化することによって色が変わるためです。われわれ医師はその性質を利用して、MRI画像で古い出血か、新しい出血かなどの区別をする場合もあります。