飛び降りる患者と「目が合った」看護師も
じつは同協議会では、2005年にも同様の調査を全国規模で実施している。そして、10年が経過した今も、依然として入院患者の自殺事故が数多く発生していることが明らかになった。
しかし「38%という調査回答率」を考えれば、実際にはもっと多くの病院で自殺事故が発生しているのかもしれない。そう考えされられるのが、看護師のために開設されたあるインターネット掲示板だ。そこには患者の自殺を体験した看護師の書き込みが数多く見られる。
たとえば「ナースステーションの窓から飛び降りた患者さんと目が合った」「消灯前に検温に行くと、病室で縊頸(いっけい=首つり自殺)されていた」「窓に這い上がるところを目撃し、手を掴もうとしたがあと一歩のところで落ちていった」という衝撃的な体験談。
「気づけなかった自分への腹立たしさや悲しさ」「思い出して何度も吐いた」「夜勤をするのがとても不安」「この先看護師として働くことに恐怖さえ感じる」といった書き込みからは、心に受けた傷の大きさや仕事を続ける上での葛藤が伝わってくる。
自殺事故に対する職場の対応として「師長がカンファレンスの時間を取り、皆で話し合いをした」というケースがある一方で、「自殺はタブーになり、その後一度も職場で話すことがなかった」という証言もある。
「タブー」や「箝口令」は当事者の心の傷を深くする。患者の自殺に関する書き込みとレスの多さからみても、心の傷をひとりで抱え込み、苦しんでいる看護師は少なくないのではないだろうか。
自殺予防の組織的な取り組みを急げ!
入院患者の自殺は、家族を含めたすべての当事者に大きな暗い影を落とすものだ。こうした状況を踏まえて、日本医療機能評価機構の提言では、「自殺事故は深刻で主要な医療事故であることを知り、措置を講ずる」ことを各病院に要請している。
具体的には、屋上などの危険な場所の整備や窓の開閉制限、人気のない場所のモニタリングで防げる自殺があることを周知。また、先行研究からわかっている自殺のリスク因子を改めて確認し、医療者間で共有するなどだ。
さらに、一般病院において、がん患者の自殺が大きな割合を占めていることから、がん患者のケアにおいては自殺予防も念頭に置いた対応をする。そして何らかのメンタルヘルス不調や自殺リスクを認めた時点で、精神科へのコンサルテーションを行うことが望まれる。
そして、院内の安全管理の一環として、自殺予防対策のための研修会を設けること。事故が起きてしまった場合は、当事者となった医療者に専門的なケアを導入することを呼びかけている。
本来は病を癒すためにある病院で、自殺が多発することはあってはならない。各病院が自殺事故の予防と、事故が発生した時の事後対応について、組織に取り組むことが必要なのだ。
(文=編集部)