マインドフルネスは瞑想などの訓練を通じて開発することができるとされる(depositphotos.com)
ストレスや痛みからうつ病まで、あらゆる現代病に有効であると宣伝されている「マインドフルネス」。だが、好事魔多し。賛否両論、喧々諤々(けんがくがく)の嵐が巻き起きている。
米ブラウン大学精神医学・人間行動学のWilloughby Britton氏らの研究チームは「マインドフルネスによる健康効果を裏付ける科学的根拠はほとんどない」とする論文を『Perspectives on Psychological Science』10月10日オンライン版に発表した(「HealthDay News」10月10日)
マインドフルネス、効果あるの? ないの? 大宣伝に惑わされないで!
論文の著者の1人であるBritton氏は「マインドフルネスによる効果が誇大に宣伝されることによって、本来受けるべき治療を受けない人が出てくる可能性がある」と懸念を述べている。
米国心理学会(APA)によると、マインドフルネスは約2600年前の仏教思想に基づいた思想で、「価値判断を伴わずに今、この瞬間に意識を集中している状態」をさす。20年前までは一部の研究者の関心を集めていただけに過ぎなかったが、その後、注目度が高まり、研究論文やメディアで取り上げられる機会が増えた。精神療法の代替療法として、心身の健康を増進する手段として企業や教育の現場に普及している。
マインドフルネスは今や10億ドル規模の大産業に成長し、多くの施術者や1500種類以上のスマートフォンアプリが市場に流れている。米ジョージメイソン大学臨床心理学の名誉教授であるJames Maddux氏は「マインドフルネスや瞑想は大昔からあり、何らかの有用性があると考える相応の理由がある」と支持する。
しかし、Britton氏らは「残念ながらマインドフルネスは十分な科学的根拠による裏付けを伴わないまま一般の人々に広がってしまった」と懸念を表す。
Britton氏らによれば、米国医療研究・品質調査機構(AHRQ)による最近のレビューでは、マインドフルネス療法による、不安、うつ、痛みの治療には中等度の効果が認められるにとどまり、ストレスを軽減したり、QOL(生活の質)を向上させたりする効果はわずかである事実が示されている。また、薬物乱用や摂食障害、睡眠障害、体重管理にマインドフルネス療法が役立つとのエビデンスも得られなかった。
ただ、Britton氏らは、マインドフルネスの効果を全面的に否定しているわけではない。実際には有効である可能性があるにもかかわらず、誇大な宣伝ばかりが目立ち、適切なアプローチによる効果の検証が行われにくい状況に陥っている現実がある。特にマインドフルネスに関する研究の問題としてBritton氏らが指摘するのが、その不適切なデザインだ。
研究の多くは定期的にマインドフルネスをベースとした「瞑想をする人」と「しない人」の健康状態を比較するものだが、「瞑想をする人」は「しない人」と比べて運動したり健康的な食事を取ったりしている可能性が高く、これらの因子が結果に影響する可能性があるとされる。また、適切なデザインによるランダム化比較試験も行われてはいるが、マインドフルネスの定義自体が曖昧で一貫していないため、明確な結果が得られない。
Britton氏は「マインドフルネスに興味がある人は、複数の研究を評価し、比較したエビデンスレビューに目を通してほしい。マインドフルネスのアプリを使用する時は、説明文をよく読み、効果を裏付ける科学的根拠があるのかどうかを確認しよう」とアドバイスしている。