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【シリーズ「中村祐輔のシカゴ便り」第20回】

医療事故を起こす医師は「謙虚でない」のか?群馬大学付属病院の事例は医療事故ではなく犯罪に近い

医療事故を起こす医師は謙虚でないのか? 群馬大学の例は医療事故ではなく犯罪に近いレベルの画像1

「自分は絶対に医療事故を起こさない」と自信を持って言える医師は稀(depositphotos.com)

 ネットニュースを見ていると「下手過ぎる医師の恐怖、病室の惨劇はこうして起きた」というタイトルの記事があった。群馬大学付属病院で起きた医療事故に関して、首藤淳哉さんという著者がコメントをしていた(JB Press)。

 最後のほうに「医療事故によって医師が業務上過失致死罪に問われるケースはほとんどないと言われる。だが医師は決して万能な存在ではない。いま医師に求められているのは、『わたしは間違えるかもしれない』という思いをどれだけ持てるかではないだろうか。命を扱うことについての畏れ。そういう謙虚さを持つ医師だけが、困難な手術に挑む真の勇気を手に出来るのではないかと思うのである」と書かれていた。

「自分は絶対に間違いを起こさない」と自信過剰の医師などは稀

 群馬大学のケースは、一般的な謙虚さの問題ではないと思う。手術をした医師本人の問題は否定しようもないが、このまともでない医師をチェックするシステムの欠如が最大の問題である。また、医療事故といっても、いろいろなケースがあり、医療事故が刑事責任を問われないのは問題であるような論調には賛同しかねる。

 また、「医療事故を起こした医師=謙虚さを欠けている」かのような表現もおかしい。医療関係者は、真剣で謙虚であっても、医療事故と背中合わせで診療に従事しているのだ。

 日本には「自分が偉い」と勘違いしている医師はたくさんいるかもしれないが、今や「自分が万能だ」と思っている医師など、絶滅危惧種ではないのか? 「自分は絶対に間違いを起こさない」と自信過剰の医師などは稀だ。

 ドクターXのように「私、失敗しません」などとは、口が裂けても言えず、逆に、「失敗したらどうしよう」「間違いだったら、どうしよう」という不安が、常に心の中を過ぎっているのが実態だ。診断の難しい病気、治療の難しい病気、リスクの高い手術、難しさに日々苦悶している医師が大半だ。

 同じ病名の患者に同じ薬剤を投与しても、同じように効果が出ると限らないのが、現実世界である。「どうしてよくならないのですか?」と聞かれても、「効かない人には効かない」と心の中で返答するしかないのだ。

 もちろん、そんなことを口に出して言ってしまえば、怒りだす患者さんもいるだろう。「どうして失敗したのですか?」と尋ねられても、それがわかっていれば、失敗などしない。医療に絶対がないにもかかわらず、ミスをすれば、許されない風潮にある。

 そして、困難に挑む勇気を持って臨んでも、失敗すれば、人格を否定するような言葉が返ってくることも少なくない。失敗することは、患者さんや家族にとって不幸であるが、医師にとっても、後悔と一生の心の負担を背負うことになるケースが多いのだ。

 指紋が個人個人で異なるように、体内の血管の位置も微妙に異なり、それが静脈認証システムに応用されている。内臓が左右逆転しているなどの極端な違いを含め、本当に多様性に富んでいる。また、血管が予想以上に脆くなっている場合もあり、いくら経験を積んでも、予測を超える場合もあるのだ。

中村祐輔(なかむら・ゆうすけ)

がん研究会がんプレシジョン医療研究センター所長。1977年、大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院外科ならびに関連施設での外科勤務を経て、84〜89年、ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、医学部人類遺伝学教室助教授。89〜94年、(財)癌研究会癌研究所生化学部長。94年、東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。95〜2011年、同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005〜2010年、理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年、内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長、2012年4月〜2018年6月、シカゴ大学医学部内科・外科教授兼個別化医療センター副センター長を経て、2016年10月20より現職。2018年4月 内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)プログラムディレクターも務める。

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