未解明の難病「急性骨髄性白血病(AML)」の恐怖
夏目を絶命させた「急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia; AML)」は、どのような難病か?
血液中の「赤血球」「白血球」「血小板」などの血液細胞は、骨の内部にある骨髄で血液細胞のもとになる「造血幹細胞」が増殖・分化・成熟して作られる。造血幹細胞は「骨髄系幹細胞」と「リンパ系幹細胞」に分かれる。骨髄系幹細胞からは、赤血球、血小板、白血球の一種である顆粒球や単球が作られ、リンパ系幹細胞からは、Bリンパ球、Tリンパ球、NK細胞などのリンパ球が作られる。
急性骨髄性白血病(AML)は、血液を作る過程の未熟な血液細胞の骨髄芽球に何らかの遺伝子異常が起こると、がん化した細胞(白血病細胞)が無制限に増殖するために発症する。
発症する原因は2つある。一つは、骨髄で白血病細胞が増加するため、造血機能が低下し、正常な血液細胞が作れないために起こる。もう一つは、白血病細胞が臓器に浸潤するために起こる。その結果、症状は、多岐に及ぶため、患者は悶絶するほどの苦痛に苛まれる。
造血機能の障害による赤血球減少、貧血、息切れ、動悸、倦怠感、白血球減少による発熱、血小板減少によるあざ、赤い点状の出血斑、鼻血、歯ぐきからの出血をはじめ、白血病細胞の浸潤による肝臓や脾臓の腫れ、腹部の膨張感・腫瘤・痛み、歯ぐきの腫れ・痛み、腰痛、関節痛、頭痛などの過酷な全身疾患を伴う。
発症の明らかな原因は不明
発症の原因は、染色体や遺伝子の異常、放射線の被曝や化学物質などだが、過去に抗がん剤治療や放射線治療後に発症する二次性白血病を除けば、明らかな原因は不明だ。発症頻度は10万人当たりおよそ2~3人。加齢とともに発症率は高まる。
急性骨髄性白血病(AML)は、病状の進行が速いので、急に症状が出現する場合が多く、早期の診断と速やかな治療が要になる。
ただ、夏目の死去した時よりも、現在の治療技術は進化している――。治療は抗がん剤を用いた強力な化学療法が主体だ。抗がん剤の臓器毒性や合併症に耐えられる否かを、年齢、全身状態、合併症有無などから評価し、治療方針が決定される。
治療は「寛解導入療法」と「寛解後療法」がある。寛解導入療法は、全身に存在する白血病細胞を抗がん剤で減少させ、顕微鏡検査で白血病細胞が認められない状態(寛解)に到達させる。一方、寛解導入療法の段階では白血病細胞は残存している(微小残存病変)ため、さらに抗がん剤による化学療法を続け、残存している白血病細胞の全滅(Total cell kill)をめざすのが寛解後療法だ。
だが、寛解後療法は、一定期間継続しても再発率は減少せず、治療に伴う有害事象が大きくなるため、「寛解後療法の回数は4回まで」だ。完全寛解の状態が5年間続けば、再発の可能性は低いとみなされる(参考:国立がん研究センター)。
なお、夏目の主治医の診断書は確認できないため、夏目を死に追いやった真因は、軽々しく速断できない。しかし、夏目のケースような大スターであればあるほど、大手出版系雑誌などの「暴露ジャーナリズム」の扇情的な世論操作や大衆迎合によって、死因の究明は、何ら根拠のない憶測・独断・曲解に陥りやすくなる点を忘れてはならない。
たとえば、夏目は、ドラマ『西遊記シリーズ』(1978~1979)の現地ウィグルロケに三蔵法師役で参加したが、中国政府がウィグルで核実験を繰り返し行なっていた点を根拠に、夏目が被曝したとする見解がある。
だが、「現地ロケ中の核実験の被曝による白血病の発症」などと強弁する論調や報道は、確定的かつ医学的な論証が何らなされていないことから、全く推測の域を出ない点も強く記憶にとどめなければならない。