中年期の難聴は認知症の可能性が高まる(depositphotos.com)
超高齢社会となった日本で、大きな課題となっているのが認知症患者の急増だ。2025年には高齢者の5人に1人、700万人を超える人が認知症を患うと推計されている。
これは世界的な問題でもある――。最新の推計によると、全世界の2015年の認知症患者数は約4700万人。低・中所得国における急激な増加もあって、2050年には約3倍に達するとみられ、全世界で対策が急がれる。
そんな中、先月に英・ロンドンで開催された「第29回国際アルツハイマー病会議(AAIC)」において、世界五大医学雑誌のひとつ「Lancet」の委員会が発表した声明が注目を浴びた。
それによると、世界の認知症発症例の35%が「9の生活習慣」の改善で予防することができるのだという。この詳細は「Lancet」7月20日オンライン版にも掲載された。
9つの対策で認知症患者を900万人減らせる
この結果を報告したのは、英ロンドン大学精神医学教授のGill Livingston氏ら、各国の認知症を専門とする研究者24人のグループだ。過去に「Lancet」誌に掲載されたアルツハイマー病や認知症に関する研究論文を「個人レベルでも改善可能で、予防に取り組みやすい」という視点から徹底的に分析・評価した。
信頼性の高い十分なエビデンスが確認されたと認められたのは、次の9つの要因だ。それぞれのリスク因子は、「高血圧」と「喫煙」を除けば、特定のライフステージで発生するという。
(A)若年期:①15歳までの中等教育を修了していないこと(8%)
(B)中年期:②肥満(1%)、③難聴(9%)
(C)高齢期:④うつ病(4%)、⑤2型糖尿病(1%)、⑥運動不足(3%)、⑦社会的孤立(2%)
(D)すべての段階で共通するもの:⑧高血圧(2%)、⑨喫煙習慣(5%)
パーセンテージは、それぞれの認知症リスクの度合いを表す。これらの9要因のリスク度を合計すると「35%」になり、残りの「65%」は個人の努力では変えられない因子になるという。
Livingston氏は「通常、認知症が診断されるのは高齢期だが、その危険因子は若い時から生涯を通じてみられ、それらによる脳の変化は症状が出る何年も前から始まっている」と説明。
そして「こうしたリスク因子を念頭に置いた対策で、すべての認知症を防ぐことはできないが、世界の認知症患者の増加を食い止める一助になるのではないか」との見方を示した。
委員会によれば、このうち7つの主要なリスク因子が10%減ることで、世界中の認知症患者数が100万人超減少する可能性がある。また、仮に認知症発症を1年遅らせることができれば、2050年に世界で認知症に罹患している人口を900万人減少させる可能性があるとしている。