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【連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」第35回】

風邪薬や鎮痛薬に含まれる「カフェイン」の大量服用による急性中毒症で自殺者も

風邪薬や鎮痛薬に含まれる「カフェイン」の大量服用による急性中毒症で自殺者もの画像1

コーヒーのカフェインは50杯以上飲まなければ致死量には達しない(depositphotos.com)

 数年前、私が経験した症例を報告する――。

 患者さんは21歳の男性。約5年間にわたり「うつ状態」だったため、精神科クリニックで抗うつ薬による治療を受けていた。ある日、市内の薬剤店よりカフェイン製剤(市販名エスタロンモカ:1錠中カフェイン100mg含有)を購入し、110錠(総量11.0g)服用して自殺を企図した。抗うつ薬の同時服用はなく、1時間後に嘔吐、頭痛、呼吸苦を訴えた。

 服用後2時間30分にて救急搬送された。意識はやや混濁し、脈拍110/分で心室性不整脈を認め、血圧は100/56mmHgであり、けいれんを呈していた。患者さん自らが、搬送直後にエスタロンモカの大量服用を告白したため、急性カフェイン中毒を疑った。

 その後、呼吸状態は悪化し、気管挿管を行なって機械呼吸にて維持、さらに重篤な心室性不整脈を認めたため除細動を試みた。その後、脈拍は安定し、体内のカフェインを除去する目的で血液透析の一種である直接血液灌流(体内の血液を取り出して、カラム内に接触させて、カフェインを体外に排泄させ、浄化された血液を体内に戻す治療法)を3時間行った。

 後日、測定した患者さんの血中カフェイン濃度は、搬送時95㎍/mL、そして直接血液灌流後には19㎍/mLと改善された。その後は不整脈も消失し、呼吸状態や意識レベルも改善し、6日後に無事退院した。

 2017年の日本中毒学会東日本地方会で、弘前大学病院高度救命救急センターの矢口医師は、これと同様の症例を報告している――。

 カフェイン製剤を16g服用し、同剤血中濃度が263㎍/mLと著明に増加し、心室性不整脈が持続したため、体外循環式心肺蘇生療法(極めて心肺機能が低下し、致命的な症状にある患者さんに対して、人工心肺で心肺の機能を代行して、生命の維持、改善を試みる治療法)を行い、さらに解毒を目的として、持続血液濾過透析にて治療し、血中濃度が56㎍/mLまで低下し、無事に救命できたという。

横山隆(よこやま・たかし)

小笠原記念札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認定クリニカルトキシコロジスト、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。
1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長などをへて現職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。

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