日本の医療訴訟は今後増加するのか?
ただし、Schaffer氏によるとこうした医療過誤訴訟の減少は、医療の安全性が向上した結果とは限らないという。
米国の大手医師賠償責任保険会社The Doctors Company社(カリフォルニア州ナパ)のDavid Troxel氏は、「訴訟の減少傾向は2003~2005年に急激に始まり、その後は徐々に横ばいになっている」と指摘する。
「この時期に患者の安全やリスク低減が注目されたためだと思いたいが、この理論では訴訟の減少が急すぎることや、他の災害保険でも同様の現象がみられる事実を説明できない」と同氏は述べ、「大半の医療過誤訴訟は論拠が薄く、賠償に至らないため、弁護士はより有利な案件を求めている可能性がある。そうした傾向には不法行為法改革も寄与しているのではないか」と付け加えている。
Schaffer氏はさらに、とくに訴訟の多かった1%の医師が、賠償金の支払われた訴訟のうち約8%の原因となっている点を指摘している。「理由は不明だが、一部の診療科は他に比べてリスクが高く、また同じ科のなかでも専門領域により大きな偏りがある」と、同氏は説明している。
日本では医療訴訟の増加に対応するため、2001年4月、東京、大阪の両地方裁判所に、医療訴訟(民事事件)を集中的に取り扱う医療集中部が新たに設けられ、その後、千葉、名古屋、福岡、さいたま、横浜にも順次設置されている。
最高裁判所の公開する資料によると、医療関係の訴訟の新受件数は、2004年の1110件をピークに次第に減少し、2009年に732件となっている。しかしその後再び増加死、2015年には836件となっている。<医事関係訴訟事件の処理状況及び平均審理期間より>
診療科別に見てみると、内科、外科、整形外科、歯科が目立って多くなっている。<医事関係訴訟事件(地裁)の診療科別既済件数より>
アメリカでは一時、医療訴訟の賠償金が際限なく高額となり、そのために医師が高額の保険料を払わざるを得なくなった。さらに弁護士たちは高い報酬を求め医療訴訟に群がった。不法行為法改革などで何とか現状をしのいでいるが、いまでもアメリカの医療崩壊の大きな不安要素であることに変わりはない。
国民皆保険の日本で同じような事態が起きるとは考えにくいが、<サラ金問題解決バブル>がとうの昔に終わっている日本の弁護士にとって、医療訴訟はまだ見ぬ宝の山かもしれない。成り行きを見守りたい。
(文=編集部)