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【連載「死の真実が〈生〉を処方する」第37回】

自動車事故の陰に潜む「失神」の正体!? 事故原因の約1割が運転者の体調変化

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「失神」の正体は?(depositphotos.com)

 失神は多くの病気の前兆になっていることがあります。突然、意識を失うことは、車の運転中や何かの作業中であった場合は事故につながり、たいへん危険です。もし失神して倒れた場合は、症状を軽く見ずに医療機関を受診することが大切です。

 ある現場で作業をしていた時に、突然、同僚が倒れこむ。会議が終わって立ち上がった時に目の前が真っ暗になって倒れこむ――。

 そのような経験はありませんか? いずれもすぐに意識が戻って、大事に至ることは少ないものです。このような時、一般の人は「貧血で倒れた」「貧血気味でめまいがする」と言いますが、正確にはこのような状態を「失神」と呼びます。

脳の血流が低下して起きる「失神」

 「失神」は、主に脳の血流が低下し、脳機能に影響が生じて一時的に意識を失う状態です。

 脳には1分間に約850mlの血液が流れています。脳は生命機能を掌る重要な臓器ですから、多少、血圧が下がっても脳の血流は保たれるように維持されています。

 しかし、平均の血圧が55mmhgを切ると、脳の血流が保たれなくなり、意識は低下します。不整脈など心臓の異常で、そもそも全身に血液が行き渡らない時には、当然、失神をきたします。

 また、全身の血液量が不足している貧血でも失神になります。ですから、冒頭のように「貧血で倒れる」こともあるのです。

 十分な血液が流れていても、その中に含まれる栄養分が不足していると、脳の働きに影響が出ます。脳は酸素とブドウ糖を栄養にします。そのため、酸素欠乏や低血糖の時も失神をきたします。

 このように失神があった場合には、背景にさまざまな病気が隠れていることがあるのです。必ず医療機関を受診して、検査を受ける必要があります。

急に立ち上がって大丈夫なメカニズム

 血圧や脈拍を正常に保ったり、腸を動かしたりすることは、自らの意志で調整することはできません。これは自立神経と言って、交感神経や副交感神経の自動的な作用によります。

 私たちが寝ている状態から急に立ち上がっても、特に問題なく全身を動かせます。この時、脳の位置は、急澂に1m50cm以上、上がりますが、それに対応して十分な血液が脳に行き渡るように適応しています。

 立ち上がった直後、体が位置の変化を把握して、心臓の拍出量と末梢の血管抵抗を変化させるのです。

 健康な人でも急に立ち上がると、収縮期血圧は10mmhg程度下がり、脈拍は1分間に10~20増加します。しかし、この反応が不十分だと、立ちくらみやめまいが生じ、程度が強いと失神することになります。この時、収縮期血圧は15mmhg以上、低下しています。この状態を「起立性低血圧」と呼びます。

 日頃は異常がなくても、ある状況が重なった時に、起立性低血圧を発症することがあります。たとえば、降圧薬内服中の人が、暑さで脱水気味の状態で長時問横になっていた後、急に立ち上がる時などです。

一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)

滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授、京都府立医科大学客員教授、東京都市大学客員教授。社会医学系指導医・専門医、日本法医学会指導医・認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999~2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(副会長)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)、日本バイオレオロジー学会(理事)、日本医学英語教育学会(副理事長)など。

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