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【シリーズ「DNA鑑定秘話」第46回】

真犯人はコイツだ! 残されたDNAから容疑者の似顔絵まで作成が可能に!?

祖先のルーツ、目、髪、肌の色、顔立ちまでを予測できるDNA表現型解析

 6年後の2015年6月、保安官事務所がDNA鑑定を委嘱している研究所の職員、モニカ・クオールは、新しい鑑定技術を知る。それが祖先のルーツ、目、髪、肌の色、顔立ちまでを予測できるDNA表現型解析(フェノタイピング)だ。

 クオールはマンキューソ保安官とレス・ブランチャード警部補に連絡。被害者の爪が掻き取った犯人の皮膚組織のDNAは、DNA表現型解析を行うパラボン・ナノラブズ社に送られ、解析される。

 捜査班は、その解析結果を知って驚く――。犯人は中南米系と踏んでいたからだ。パラボン・ナノラブズ社の解析によれば、犯人は肌が白く、そばかすがあり、目は緑か青、髪は茶色。北欧系にルーツをもつと推定する。

 2015年9月1日、保安官事務所はブージガード殺害の犯人像として、白人男性の似顔絵画像をメディアに公開。画像は表情がまったくなく、目に幼少期のトラウマを窺わせる形跡はない。厚い唇にも邪悪な薄ら笑いはない。どこにでもいそうな男性の顔に見える。

 しかし、ブランチャード警部補は事件の解決に希望を捨てていない。昨年9月の画像の公開後、複数の情報が寄せられたからだ。捜査班は再び動きだしている。『ナショナルジオグラフィック』(2016年7月3日)によると、現場の証拠と一致するDNAの持ち主は、まだ発見されていない。

 ちなみに、今回使われたDNA表現型解析の表現型とは何だろう?

 表現型は、ヒトの外見に現われた形質(形態、構造、行動、生理的性質など)だ。つまり、表現型は、DNAの塩基配列が決めている。したがって、塩基配列を調べれば、DNAの分子系統を辿ることができるので、DNAの表現型の差異によって個人を特定することにつながるのだ。

 DNA表現型解析の精度がさらに上がれば、近い将来、シエラ・ブージガードを殺害した真犯人に辿り着けるに違いない。
(文=佐藤博)

佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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