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【連載「救急医療24時。こんな患者さんがやってきた!」第7回】

糖尿病患者が透析中に昏睡状態になり半身麻痺! 原因は「脳出血」か?それとも「低血糖」か?

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透析中に半身麻痺を起こした原因は? (depositphotos.com)

 往診中の患者が急に意識障害と右片麻痺を起こした――。脳出血の疑いによる患者紹介がER(救急救命室 )に来た。さて、その原因は、はたして脳出血か?

糖尿病患者は本当に脳出血か?

 ERナースが交換から回ってきた電話を「先生、○○クリニックから脳出血の紹介です」と言ってERドクターに取り次いだ。

 電話口で「どういう患者さんですか?」と先方の医師に問うと、「私のところで透析を受けている55歳の男性ですが、先ほどから急に昏睡状態になり、右片麻痺が出ているんです。眼球は左に共同偏視が見られ、右にバビンスキー反射も出ています。脳出血だと思うのですが、いいですか? 既往に高血圧と糖尿病もありまして、糖尿病についてはインスリン治療を行っています。現在、血圧が180の90です」とのこと。

 その話を聞いた時、ERドクターは、脳出血の診断に疑問を感じた。

 「そうですか……。血糖値は測りましたか。低血糖発作はないでしょうか?」と問うと、「はあ? だけど昏睡状態で右片麻痺があってバビンスキー反射も出ているのですよ。低血糖発作で片麻痺が出ますか?」と答える。

 紹介医師は、ERドクターからの予想外の返事に驚き、少しむきになっていた。

 「ちなみに、今回、痙攣はありませんよね」
 「痙攣はありません」

突然の片麻痺の原因は主に4つ

 突然の片麻痺の原因は、頻度順に「①脳梗塞」「②脳出血」「③低血糖」「④痙攣後のトッド麻痺」となっており、ほぼこの4疾患で占められる。

 他の原因として、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍・脳膿瘍、頸髄疾患などが挙げられるが、これらは一般的には「突然」ではない。また、高血圧性脳症や非ケトン性高浸透圧症候群(高血糖)でも片麻痺が見られることがあるが、これれは非常に稀だ。

 片麻痺の原因を診断するために、ERでは簡単にできることから確認・検査が行われる。以下の順番で行う理由は、頻度の低い原因疾患から診断し除外するためである。

①痙攣の有無の確認=痙攣後のトッド麻痺を診断または除外
②血糖検査=低血糖を診断または除外
③CT検査=脳出血を診断または除外
④MRI・MRA検査=脳梗塞の診断

 今回は、痙攣はないとのことなので、脳梗塞か脳出血、低血糖の可能性が高い。これら3疾患のうち、頻度としては脳梗塞か脳出血が多いが、糖尿病やインスリン治療という情報が加わると、低血糖の可能性が非常に高くなる。

河野寛幸(こうの・ひろゆき)

福岡記念病院救急科部長。一般社団法人・福岡博多トレーニングセンター理事長。
愛媛県生まれ、1986年、愛媛大学医学部医学科卒。日本救急医学会専門医、日本脳神経外科学会専門医、臨床研修指導医。医学部卒業後、最初の約10年間は脳神経外科医、その後の約20年間は救急医(ER型救急医)として勤務し、「ER型救急システム」を構築する。1990年代後半からはBLS・ACLS(心肺停止・呼吸停止・不整脈・急性冠症候群・脳卒中の初期診療)の救急医学教育にも従事。2011年に一般社団法人・福岡博多トレーニングセンターを設立し理事長として現在に至る。主な著書に、『ニッポンER』(海拓舎)、『心肺停止と不整脈』(日経BP)、『ERで役立つ救急症候学』(CBR)などがある。

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