側脳室の周辺、大脳基底核、小脳などの脳の深部白質にできる脳リンパ腫!
松方さんが襲われた脳リンパ腫は、どのような症状を伴うのだろうか?
初期に片方の目の視力が低下する眼内リンパ腫(ブドウ膜炎)を発症後、数日から数週間で大脳のあらゆる部位に急速に進行する。原発巣がどこかを判別するのが困難だが、特に側脳室の周辺、大脳基底核、小脳などの脳の深部白質にできやすい。
主な症状は、体の麻痺、激しい頭痛や嘔吐をはじめ、失語症、視力・視野の機能障害、認知能力(認知症)の低下などが著しい。60歳から80歳代の高齢者に発症しやすい。
診断は、超音波検査、X線検査をはじめ、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(核磁気共鳴画像)検査、PET(核医学検査骨)などの画像診断を組み合わせながら、腫瘍の種類、悪性度を鑑別する病理診断を行う。だが、最終的には手術中の病理迅速診断によって判断が下される。
治療は、外科手術、放射線治療、抗がん剤治療、薬物療法、造血幹細胞移植などを組み合わせる。最も重要な点は、話したり、考えたり、歩けるように脳の機能を温存する点だ。したがって、言語の機能を守るために、患者と対話しながら手術する覚醒下手術が採用される場合も少なくない。正常脳組織との境界が判別しにくい時は、ナビゲーション、電気生理学的モニタリング検査、術中MRI、蛍光診断などの手法を手術中に導入する場合もある。
脳リンパ腫はB細胞性リンパ腫(大細胞型)が約80~90%を占めるが、進行が速いうえ、標準治療が確立されていないため、診断後の数週間〜数か月で死に至るリスクが高まるという。
松方さんの場合は発症からおよそ1年で死去した。病態はどのように進行したのだろう?
組織学的に見れば脳リンパ腫は、異型性の高いリンパ球の腫瘍細胞が血管周辺に集まり、さらに深く周辺の脳内に浸潤するため、脳の開頭手術だけでは除去が難しいだけでなく、再発リスクも高いとされている。
希少がんにまつわる直近のエポック
最後に、希少がんにまつわる直近のエポックがある。
国立がん研究センター中央病院、愛知県がんセンター中央病院、国立病院機構大阪医療センター、岡山大学病院の4病院は、脚などにできる明細胞肉腫(めいさいぼうにくしゅ)と 胞巣状軟部肉腫(ほうそうじょうなんぶにくしゅ)の患者に対して、がん免疫治療薬のオプジーボを使う臨床試験(治験)を始めた。
治験では、手術で切除しきれない18歳以上の患者にオプジーボを投与し、効果をみる計画だ。オプジーボは悪性黒色腫に良く効くことから、2つの肉腫への薬効が期待されている(読売オンライン2017年1月24日)。
また1月19日には、2017年度からの「第3期がん対策推進基本計画」を策定するがん対策推進協議会が開かれ、「予防」「治療」「共生」を全体目標に掲げて推進することが確認された。
希少がんの治療・研究を進めるためには、集約化とネットワーク構築が課題としている。東尚弘氏(国立がん研究センターがん対策情報センターがん臨床情報部部長)は、四肢軟部肉腫や眼腫瘍などの希少がんの情報公開も進めると語った(メディ・ウォッチ2017年1月20日)。
さて、「頑張るしかない! 1日も早く脳リンパ腫を乗り越えたい!」と熱く語っていた松方さん。俳優のキャリアも、モンスターマグロ361kgの釣果も大胆で男性的だった。大海原で勇躍する松方さんの姿はもう見られない。しかし、豪放剛胆な役者魂も、釣りバカ武勇伝も、いつまでも語り継がれるだろう――。松方さんのご冥福を祈りたい。
(文=編集部)