すべてが女性医師だと年間3万2000人の命を救える
死亡率の差0.4%はわずかに思えるかもしれない。しかし、研究者のひとりは「仮に男性医師が女性医師並の医療を提供すれば、理論上は米国全体で年間3万2000人の命を救える」と述べている。これはアメリカの自動車事故による年間死亡者数にも匹敵するという。
今回の研究は内科医にのみに着目しているが、外科手術を要する患者やがん患者などは対象外であったとしても注目すべき結果だ。
なぜそうした差が生まれるのか、今回の研究では明らかにされていないが、過去の研究では、女性医師は男性に比べて「臨床ガイドラインの順守率が高い」こと、そして「患者と明確なコミュニケーションを取る傾向がある」ことなどが示されている。
「このような差から、今回の結果を説明できる可能性がある」と、ハーバード大学公衆衛生学部教授のAshish Jha氏は分析する。
付随論説を執筆した米・カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のAnna Parks氏は、今回の知見は「女性医師の治療の質が男性医師に劣るとする、一部の考えを否定するものだ」と指摘。Jha氏もこれに同意している。
女性医師の能力を活かす環境が急務?
「主治医が女医さんだけど大丈夫かな?」といった固定観念はナンセンス。むしろこの結果を知ったなら「積極的に女医さんにかかりたい」と思う患者も増えるだろう。
しかし「優秀な」女性医師のといえど、地位が高いとはいえない。アメリカでは医科系大学の卒業生の半分以上を女性が占めているにもかかわらず、女性医師は全医師の3分の1でしかない。
公的な医療機関で働く男性医師と女性医師との間では、平均8%以上の年収格差があるといわれる。
日本においても多くの女性医師が、結婚や出産・育児などのライフイベントのために働くことをあきらめ、キャリアの中断を余儀なくされている。女性医師の就業率は一般女性と同じように年齢に合わせて「Mカーブ」をたどり、最も低い35歳ごろの就業率は76%ほど。
さらに男性医師の96%がフルタイムで働くのに対し、フルタイム勤務の女性医師は7割弱。あとはパートないし休職中などだ(全国私立医科大学合同調査)。
日本での女性医師の割合は年々増加しており、平成24年の時点で女性医師は全医師の19.7%を占める(日本医師会)。このまま順調に増えていけば、3人に1人が女性医師という時代はそう遠くない。
なかでも医師不足が問題になっている産婦人科や小児科では、20代の女性医師の割合が半数以上を占める。こうした分野の医療を維持し続けるには、女性医師が働くための環境整備が待ったなしの状況なのだ。
今回の研究結果が注目されることが、女性医師の地位向上という側面にも活かされることを望みたい。
(文=編集部)