6割以上の経営者が「無理」回答
がん患者の就労支援に取り組む一般社団法人「CSRプロジェクト」(Cancer Survivors Recruiting Project)が行なった全国調査によれば、改正法の掲げる理想(目標)とは程遠い事業主側の本音(現実)が浮き彫りにされた。
CSRの調査は昨年4月、従業員300人以下の中小企業経営者および個人事業主の計200人を対象に行なわれたもの。うち就労と治療の両立に関する問いに対し、「難しい」「無理」という回答をした層が122人と「全体の61%」を占めた。
両立の障害理由を尋ねた質問(=複数回答)については、「事業規模からして余裕がない」(93人)が最多。次いで「仕事量の調整が難しい」(42人)との現場性が露呈し、「どのように処遇していいか分からない」(28人)という戸惑いの本音が3位だった。
では、一重に「中小企業」と呼ばれているが、国内の企業数全体の99.7%を占めているのを、あなたはご存じだろうか。昨春発表された中小企業庁の概要によれば、全国の中小企業数は380万9000社だ。
その中小で働く計3361万人という従業員数も全体の70.1%を占めている。にもかかわらず、先程のCSR調査の就労と治療の両立に関するすべての質問を通じて、「問題ない」と答えた事業主は200人中71人(35.5%)だった――。
中小のがん失職率も3倍超
また、同時期にCSRが全国の患者300人を対象に実施した調査でも、がんの診断後の「大手」と「中小」の実相差が確認された。
診断後の失職率が従業員500人以上の企業では5.1%なのに対して、従業員500人未満の企業の場合は16.8%と「3倍以上」の数値が弾き出され、企業規模が小さいほど高い離職率を示していた。
調査概要によれば、中小経営者が国などに求める具体的な支援策は、休職中社員の社会保険料の会社負担減免や、患者の就労継続に取り組む企業への助成金などが多かったという。
だが、国や自治体は障害者・高齢者の雇用企業への助成金制度は設けているものの、がん患者雇用を促す制度は、いまだ確立されていない。
折しも内閣府は昨年末、技術革新などがなされない場合の生産年齢人口減(2030年で1%減)による低成長定常化を想定し、高齢者の定義を「70歳以上」に引き上げることも提案。
新年を迎えた5日には、日本老年学会・日本老年医学会が従来「65歳以上」とされてきた高齢者の定義を「75歳以上」にするべきだと提言した。日本人の死因第1位は変わらず「がん」、その「75歳未満」の死亡率減が目標値を下回る以上、そんな論議もどこか空しく響く。
(文=編集部)