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【連載「死の真実が〈生〉を処方する」第32回】

若者たちの「性感染症」の氾濫の実態〜教育と啓発が、自らを守り他人への感染も防ぐ!

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自らの感染を防ぎ他人へも感染させないよう教育と啓発を(shutterstock.com)

 性感染症は発見されにくく、また知識不足もあって、若者たちを中心に広まりやすい傾向にあります。我が国における性感染症の罹患者は増加しつつあり、いくつかの発展途上国では死因の第1位がエイズであるように、性感染症は深刻な病気です。

 しばしば、私はある施設で診察を行うことがあります。病歴を尋ねると、クラミジアや淋病といった性感染症に罹忠した人が多いことが分かりました。さらに調べると、援助交際や違法薬物使用の経験がありました。これはこの施設だけの問題ではありません。

性感染症の国内外の広がり

 性感染症は「Sexually Transmitted Diseases」の頭文字をとって「STD」と略されます。性行為によって感染する病気であり、広く知られているのは、淋病、梅毒、クラミジア感染症、トリコモナス膣炎などです。

 性交渉のパートナーをしょっちゅう変えている人、多数のパートナーがいる人に高頻度に見られます。したがって、我が国では、風俗業に従事している人や、援助交際をしている女性に多く、そのほか同性愛者、薬物常習者にも見られます。

 世界における現状を見ると、全人口の約4分の3は発展途上国であり、STD患者の約9割がこの発展途上国にいます。これらの国では近年、青少年が増加しており、都市部で歓楽街が増加するとともに、危険な性行為が増え、さらに貧困や戦争に起因した性の諸問題が生じているのです。

 皆さんもご存じのエイズ(後天性免疫不全症候群)はHIV感染によって生じますが、STDの一つです。残念ながら、いくつかの発展途上国ではHIV感染が死因の第1位となっており、STDが国を滅ぼすかもしれません。

 次に、国内の現状を見ると、STDの中で梅毒患者は、感染症予防法により全数を届け出ることが定められています。梅毒患者数は年々増加しており、平成12(2000)年に759人であった忠者数は、平成26(2014)年に1683人となりました。

 そのほか、淋病、クラミジア、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマなどは全国の975カ所(平成26年現在)の医療機関における報告数を調べています(定点報告)。

 このうち、尖圭コンジローマの患者数はこの15年問で増加しつつあります。また、性器ヘルペスウイルス感染症は総数がほぼ横ばいであるものの、女性の患者数は増加しています。

性感染症が重篤な病態に

 STDであるトリコモナス肺炎や淋病の原因菌は、感染後に膣内にいます。しかし、未治療の状態では膣から子宮頸部、子宮内膜、卵管を経由して腹腔内(おなかの内部、臓器があるところ)に至ることがあります。そこで炎症を起こすと、骨盤内腹膜炎という重篤な状態になることがあります。

 腹痛を訴えて病院を受診した若い女性が、この病気に罹っていることがあります。受診した際に、必ずしも日常の性行為について話さず、また、女性器の異常について話さないことがあるので、内科や外科では発見されないことがあるのです。そのため、若い女性の腹痛にはSTDに起因した腹膜炎も考えなければなりません。

 また、近年、若い女性に対して子宮頸がんの予防に向けたワクチン接種が開始されました。現在、このワクチン接種による副反応の影響が懸念され、積極的な推奨はされていません。

 子宮頸がんの原因菌はHPV(ヒトパピローマウイルス)ですが、このウイルスの仲間がSTDに位置付けられます。HPVの感染で、外陰部にいぼのようなものが多数できる尖圭コンジローマという病気があります。

 この病気になると、外用薬をつけるだけでは治らず、焼いたり切ったりする手術が必要になることがあります。

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