さまざまな<障害>が複雑に絡み合い……
「ためこみ障害(Hoarding Disorder)」という用語がある。米国精神医学会の『精神障害/疾患の診断・統計マニュアル』ではこれまで、「強迫性障害(Obsessive Compulsive Disorder:OCD)」の下位分類と位置づけられ、「強迫的ためこみ(compulsive hoarding)」という強迫行為の症状とされてきた。
だが、同書第5版では、過剰収集や捨てられない特異行動が独立的な精神疾患(強迫関連障害=ためこみ障害)と認められた。<過剰なためこみ(hoarding)>や<保存する(saving)>強迫行為は、何も日本人特有の症状ではなく、「ごみ屋敷」は世界中の各地に散布している問題だ。
一方、医学上の定義が成されても、その万全な療法が編み出されたわけではない。治療は患者のクセ(行動や考え方)を修正する認知行動療法的なカウンセリングが主体となるが、日本では一般向け情報がまだ乏しい。
ためこみ行為自体は、「OCD(強迫性障害)」特有の症状とは限らない。うつ病が原因で整理意欲が減退したり、双極性障害の人が過剰に購買したり、ほかにも認知症・統合失調症・依存症・摂食障害……など、さまざまな<障害>が絡み合うようだ。
強迫性障害とためこみ障害の重複率は17~42%ともいわれる。
難しい支援と強制措置のバランス
「ごみ屋敷」には各自治体も対策に乗り出している。京都市では2014年にいち早く罰則規定をもうけ、氏名公表や最大5万円の過料を科した。
家主感情を鑑みて、各自治体も参照する条文上では「ごみ」という表現は慎重に避け、(生活環境や衛生面、防犯・防災への悪影響をあたえる)「物の堆積」または放置」などのコトバを使っている。
ごみ屋敷対策条例を検討している横浜市では9月6日の市議会本会議で、「ごみ屋敷」の事例が市内に60件(6月末時点)あることを明らかにした。
条例案は、住人が自主的にごみを片付けるための福祉的な支援が基本方針だが、解決の目処が立たなければ、市が強制撤去する内容だ。成立すれば12月1日施行され、県内では初のケースとなる。
近隣住民の期待は「一刻も早い改善」「スピード感を持った対応」だが、支援と強制措置のバランスは難しい。
内閣府によれば、ごみ屋敷の主には独居暮らしの高齢者も少なくなく、体力の衰えや認知症などからセルフネグレクト(自己放任)に陥っている例も少なくない。前述のとおり、ごみ屋敷が生まれるまでに絡み合っている、さまざまな<障害>をどう改善、克服に導くかという議論は不可欠だといえる。
(文=編集部)