●20年以上遅れるわが国の対応
例えば、EU(欧州連合)では1990年代にTHC含有率に基づく安全規定を定め、現在EU圏内の農家は、決められた種子会社や農業試験場から種を入手すれば、特別なライセンスなどなくとも栽培できるようになっています。
中国においては、2007年から軍の「漢麻資材研究センター」とアパレル業界大手の「ヤンガー・グループ」が出資して、漢麻産業投資控股有限公司を設立。2008年からTHC含有率による品種の管理をし産業に活用するようにしています(参考:http://hokkaido-hemp.net/foreign.html)。
わが国においては、アサという植物は厚生労働省 麻薬対策課が一手に管轄する体制となっています。従って、遺伝資源の保護とかアサの産業利用という発想と視点を持ち得ず現在に至っています。
●日本の現状
わが国で、栽培免許許可の対象となるのは、厚労省 麻薬対策課の指導により「伝統の継承などにどうしても必要な場合」のみ。また盗難防止のため見回り、柵や監視カメラの設置などの重い負担が求められるため栽培者は次第に撤退。全国で40名ほどに減っています。また、正式な栽培者は、盗難や評判の低下を恐れるため、困った状態になっても栽培していることを公にできず孤立無援となる場合がほとんどです。
逆に、「マリファナ解禁派」などと呼ばれる大麻の嗜好利用を目指す人々が、その目的の踏み台や隠れ蓑とする意図で、アサの伝統継承や産業利用の情報をインターネットなどで盛んに喧伝しています。それは「大麻(アサ)は得体のしれない恐ろしい物」という悪いイメージを一般国民が持つことや、厚労省がより頑なになってしまうことに一役買っているかもしれません。
●解決に向けて:作物としての視点を取り戻す
アサは、薬物と同時に農作物ですので、その管轄は、厚労省と農水省との共同とすべきです。アサ栽培の全責任を厚労省が担っているという体制では、栽培縮小という方針にならざるを得ないのは当然のことでしょう。
両省合同の管理とし、乱用を防ぎつつ栽培を発展させるという体制づくりが求められます。
これまで述べたように、アサは多くの伝統文化を支えていると共に、化石資源に代わる循環型の資源として大変有望な作物です。また、日本人とアサとの関わりは、縄文時代以前からと言われます。つまり1万年以上かけて先祖と共に進化してきた貴重な遺伝資源です。私たちの代で、滅ぼしてしまうということがあってはなりません。また、医療の分野でも注目されている植物でもあります。
大麻=薬物乱用=悪という思考停止の呪縛から日本の社会が解き放たれ、日本人とアサとの良い関係が再構築されるために、この稿が役立つことを願っています。
なお、インターネット上には大麻乱用の危険性を軽視する情報があふれ、憂慮しています。科学的にその有害性などの性質を捉え、合理的で倫理的な判断ができるよう正しい知識の啓蒙と薬物乱用防止のための教育の推進も進める必要性を感じています。
若園和朗(わかぞの・かずろう)
難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン代表理事
日本麻協議会事務局代表
「MRIC」2016年7月12日より転載