スマホで話すだけで声の分析ができるアプリ「MIMOSYS(ミモシス)」
2010年、光吉特任講師は、音声で感情が分かるなら、うつ病やストレス反応も診断できないかと考え、音声病態分析の研究へシフトする。ちょうどその頃、爆弾による人体への衝撃、自衛隊員らのストレス、災害医療などに特化した研究に携わっていた防衛医科大学の徳野特任准教授に出会った。
当初、徳野特任准教授は、音声病態分析の精度に疑問を感じる。だが、東日本大震災で支援活動に携わった自衛隊員を対象に、音声パターン解析ソフトを使って音声に含まれる感情の度合を分析したり、アルゴリズムを改良したところ、音声病態分析の精度が一段と高まった。
2015年、光吉特任講師は、音声病態分析のノウハウをより普及させるために、ベンチャー企業のPSTを立ち上げる。さまざまな試行錯誤があったものの、スマホで話すだけで、声から情動、ストレス、抑うつ状態などの心の状態をリアルタイムに分析・認識できるアンドロイド対応のアプリ、MIMOSYS(ミモシス)の開発に漕ぎ着けた。
MIMOSYSは、コントロールできない不随意運動の変化を声の周波数の変動パターンから心の状態を分析する仕組み。つまり、元気圧(現在の心の状態)と心の活量値(長期的な心の状態)を測定するので、声の分析結果を表示するアプリの画面を見れば、元気か不調かが分かる。
元気圧は、通話で発した声を一つずつ解析し、通話全体でどのくらい元気だったかをHIGH(高い)、NORMAL(普通)、LOW(低い)の3段階で表示するため、自分の心の状態が一目瞭然で掴めるのだ。
ただ、1回の通話では、その時の状態しか測定できないが、3回以上通話すれば長期的な心の元気さが活量値で示され、履歴はグラフで確認できる。たとえば、元気圧のグラフが右下がりなら、仕事量を減らしたり、睡眠を十分に取ったりして、メンタルヘルスや体調の管理に役立てられる。
ちなみに、神奈川県は、未病を減らし最先端医療を推進する目的で進めるプロジェクト「ME-BYO(ミビョウ)」の推奨製品第1号にMIMOSYS選んでいる。
8月までに1万人を目標に研究参加者を募集中
今後、MIMOSYSは、さまざまな疾患の診断に期待が高まっている。たとえば、認知症やパーキンソン病だ。吃音や声の震えなどの声の質から特徴をプログラム化できれば、診断に応用できる。
睡眠時無呼吸症候群なら、患者が呼吸を補助する装置を付けて寝た時に、よく眠れたか、眠れなかったかを声の違いによって効果を判断できる。交感神経と副交感神経のバランスが崩れるストレス疾患や、声に特徴的な変化が現れやすい疾患などに応用が広がるかもしれない。
ルーマニア大学との共同研究で、日本語以外のハンガリー語、ドイツ語、ロシア語、スペイン語、トルコ語などの他言語にも対応も進んでいる。
今後、音声病態分析の精度がさらに向上し、病院が次回の診察までの自宅や職場の状態をスマホから読み取ることができれば、診断時間の短縮や正確な診断、医療費の抑制につながる。119番の応対に使えば、救命率を高められる。
デジタル データとして残るため、さまざまなシステムとの連携もしやすく、MIMOSYSの汎用性は、とても大きい。
現在、ダウンロード数は1000を超え、利用者は500人以上。東大の研究のために自分のデータを提供する条件なら、MIMOSYSは誰でも無料で使える。東大音声病態分析学講座は、MIMOSYSの医学的な効果を検証するため、8月までに1万人を目標に研究参加者を募集中。アンケートに答えれば、ダウンロードできる。使用可能な携帯端末はアンドロイド4.1以上。興味があれば、アクセスしてほしい。
(文=編集部)