行列に並んでしまうのはなぜ?(shutterstock.com)
昨今、行列は珍しくもない日常茶飯事だが、なぜ人は競ってまで並ぼうと焦るのか? 日本人の行列好き、行列オタク。そのワケを心理学的、脳科学的に真面目に暴いてみた。
マーケティング会社のトレンダーズが20代以上の女性を対象に行なったアンケート調査によると、行列に並ぶのが好きな人は16%、行列に並ぶのが嫌いな人は84%だった。
電通の調べによれば、行列に並ぶのは、美味しい、デザインや品質がいいなど並ぶ価値ありと判断したとき/評判を聞いたり流行ったり試したいとき/今しか手に入らないとき/どうしても食べたい、買いたいと感じたとき/行列をしてでも試したいと思ったときだった。
行列する理由や動機が明確なら、時間も手間も惜しまず並ぶ。
料金支払いサービス「ペイジー」の普及を進めている日本マルチペイメントネットワーク推進協議会(JAMPA)の調べでは、待ちたくない行列のトップ3は、コンビニのレジ待ち/銀行窓口の列/飲食店の行列。
人気アトラクションや話題の流行店のように、待つ価値や楽しみがあれば並ぶが、並ばされる行列は、時間のロスで疲れる。
JAPAN VIEWのWEBマガジン「かりかりかりうむ」の「よく並ぶ人の実態」を調べた記事によると、行列に並んだ経験がある人は88%だった。
たとえば、年末ジャンボの発売開始日に西銀座のチャンスセンターで3時間並んだ(60歳男性)、いつも50人は並ぶ東京駅地下街のつけ麺屋・六厘舎で40分間も並んで食べた(20歳のサラリーマン男性)、娘の幼稚園入学のために前夜から夫婦交代で行列した(30歳の主婦)。iPhone4Sの発売日に800人が並んだ銀座のアップルストア前に並んだ(30歳代のイラストレーター)……。
人はなぜ並ぶのか? 行列したがるのか? その心理と行動の真相は?
行列は心理学的に分析すると、他人の行動を真似る同調行動だ。なぜ同調行動に走るのか?
同調行動を研究している米国の心理学者ソロモン・アッシュ博士は、カードに描かれた直線と同じ長さを持つ線を別の3本の直線から探し出す視覚テストを行なった。その結果、誤答するサクラがいるときの誤答率は37%、サクラがいないときの誤答率は0.7%だった。
アッシュ博士は「人間はサクラに影響を受けないことを立証しようとしたのに、その逆の結果が出た」とサクラ効果を認めている。
社会心理学の視点から行列を観察する日本カウンセラー学院講師の上則直子氏によれば、社会的動物である人間は、情報が不確かなときは他者の行動を参考にしやすいので、行列店に入りやすいと指摘する。
行列店に入れば、マジョリティに属した安心感に浸れる。行列店の料理が期待はずれでも、並んだ時間とお金のコストは消えないため、美味しかったと思い込もうとする。自分はこんな人間だという自己確証が弱い人や、自分の選択に自信が持てない人ほど行列に走る傾向が強い。
この同調行動を活用した行列マーケティングという手法がある。行列マーケティングは、行列を意図的に作り、待たせて、焦らす戦略だ。たとえば、予約させて「まだかまだか」と期待を高める、並ばないと先を越される、手に入らなくなる、並ぶと面白いなどと煽る作戦だ。
ラーメン店なら、アルバイトのサクラを並ばせる、回転率を落とす、客席を減らす、店を小さくする、レジの人を増やさない、店内で待たせない、注文後に調理する、調理スピードをコントロールする、営業時間を短縮する、並んだ順番を守る、席移動をさせないなど、行列に並ぶ客の心理を読みながら、巧みに期待感や満足感を最大化させる心理作戦に他ならない。
行列をクネクネと曲げた列にしたり、ショーで盛り上げたりするディズニーランドや、並んでいる人にあんパン、ドーナツ、コーヒーなどを配布するユニクロの新規開店やアップルストアなどは、行列マーケティングの成功例だろう。