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【シリーズ「病名だけが知っている脳科学の謎と不思議」第2回】

アルツハイマー病の由来は? 〜20世紀初頭に51歳で発病した女性から始まる物語

アルツハイマー病の発見から今日までの軌跡

 悠々1世紀を越える道のりを歩んできたアルツハイマー病との闘い。最近のトピックを追ってみよう。

 2007年3月、文部科学省科学技術政策研究所は「2025年に目指すべき社会の姿 科学技術の俯瞰的予測調査に基づく検討」を発表し、2030年までにアルツハイマー病の進行を阻止する技術が開発されると予測している。

 査読医学誌『The Lancet Neurology(神経学)』(2013年12月)によると、アルツハイマーに脳を献体して世界初のアルツハイマー病患者になったアウグステ夫人は、家族性アルツハイマー病の原因遺伝子であるプレセニリン1(PSEN1、γセクレターゼ)変異の保因者だった事実が判明している。

 米国神経学協会(ANA)のオープンアクセスジャーナル『Annals of Clinical and Translational Neurology』(2015年1月9日)によれば、大阪大学医学研究科脳神経科学の富山貴美准教授らのグループは、過剰にリン酸化されたタウに結合し、タウを除去する新しいモノクローナル抗体を開発した。

 アルツハイマー病の脳の病態は、アミロイドβというペプチドが細胞外にたまる老人斑と、タウというタンパク質が過剰にリン酸化されて細胞内にたまる神経原線維変化の2種類がある。

 アミロイドβの標的薬の開発が主流だが、臨床試験での有効性は未確認だ。今回開発された抗体は、タウの標的薬の有力なプロトタイプになると期待されている。

 神経分野の国際誌『JAMAニューロロジー』(2015年8月24日)によると、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校などの研究グループは、世界初のアルツハイマー病の遺伝子治療を行い、変性して弱った脳のニューロン(神経細胞)の再活性化に成功したと発表した。

 神経科学誌『アナルズ・オブ・ニューロロジー』のオンライン版(2015年9月)によれば、米国ワシントン大学の研究グループは、60~87歳の100人に脳のスキャン検査を実施し、加齢に伴って増加するアミロイドβ42の生成過程を解明した。

 アルツハイマー病の発症リスクは、65歳を過ぎると5年ごとに倍増し、85歳以上になるとおよそ40%の人が発病する事実が確かめられた。

 アルツハイマーが発見し、克明な記録を残した難病アルツハイマー病。1世紀もの時間を跨いだ今、その病態の機序にも治療法の開発にも、新たな夜明けの兆しが感じられる――。

 「あなたのお名前は?」「今日は何月何日何曜日?」「7かける9は?」「お子さんのお名前は?」。あなたにもその時が来るかもしれない。だが、Dr.アルツハイマーの質問に即答できなくても構わない。だれもが明日に向かって希望をつなぎながら生きられる人生であってほしい。

*参考文献:『アルツハイマーはなぜアルツハイマーになったのか 病名になった人々の物語』(ダウエ・ドラーイスマ/講談社)、『アルツハイマー その生涯とアルツハイマー病発見の軌跡 』(保健同人社)


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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