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【シリーズ「DNA鑑定秘話」第29回】

DNAから大発見!現人類と異種交配していたネアンデルタール人

ネアンデルタール人は大きな脳を持っていた

 1829年、ベルギー・アンジスで初めて発見されたネアンデルタール人は、子どもの小さな頭骨にすぎなかった。1856年にはドイツ・デュッセルドルフ郊外のネアンデル谷にあるフェルトホッファー洞窟から、ネアンデルタール人の頭骨化石が見つかる。当初は現人類よりも知能が低く、言葉も知らない原始人、大柄・筋肉質の猿人類と憶測された。

 だが、科学的研究が進み、その実像が浮かび上がる。隆起した眉、がっしりした体格、白い肌、金髪か茶髪。男性の脳容量は1600㎤(立方センチメートル)で現人類の男性の1450㎤より大きい。居住エリアはヨーロッパやアジア。石器や火を使い、壁画を残している事実から、当時のホモ・サピエンスと変わらない進化の途上にあり、言葉を話した確率はきわめて高い。

 ロンドン自然史博物館で人類起源の研究に携わるクリス・ストリンガー教授は、「ネアンデルタール人の化石は、アフリカ大陸で発見されていないので、遭遇・接触したのはアフリカ大陸ではない。異種交配(性交渉)の場所は、アラビアから南アジア全域などの可能性が強い」と指摘する。

謎が深まるネアンデルタール人の絶滅

 異種交配(性交渉)は、どのようなシナリオだったのか? 恋愛? 不倫? パートナー交換? 略奪婚? 捨て子? 孤児? DNAは何も語らない。

 カステラノ氏は「10万年前、争いも交流も恋愛もあったかもしれない。なぜなら、現人類のDNAにネアンデルタールのDNAの痕跡が刻まれているからだ。最近の研究で、免疫システムやうつ病などの罹りやすさなど、生物学的・遺伝学的な影響を受けている事実が次々と明らかになっている」と話す。

 ネアンデルタール人が絶滅したのも謎だ。

 カステラノ氏によれば、ホモ・サピエンスの人口が急増し、遺伝子の混合が何世代にもわたるにつれて、個体数が圧倒的に少なかったネアンデルタール人のDNAは、ホモ・サピエンスのDNAに吸収されたため、絶滅したという。

 だが、記憶すべき事実がある。およそ10万年前にホモ・サピエンスが共存していたのは、ネアンデルタール人だけではない。「第3の人類」デニソワ人との交配もあったからだ。次回は、シベリア・アルタイ山脈のデニソワ洞窟で発見された「第3の人類」デニソワ人を話そう。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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