ドラマと呼応するかのような川崎・有料老人ホーム殺人事件……
「殺すつもりでやった」「夜勤が辛かった」と入居者3人の殺害供述を始めた今井隼人容疑者(23)の事件的背景は重くて深い。通常、夜勤一人当たりで10人前後が妥当とされるが、件の川崎・有料老人ホーム殺人事件の場合、定員約80人を夜間は原則3人体制で対応していた。
しかも、未明の時間帯も、「ライン」と称される日程表で分刻みの縛り。交代で仮眠を取り合えば2人体制での対応となり、職員同士間の監視も儘ならなかったのは想像に難くない。もちろんどんな劣悪下であれ、「手のかかる人」に切れて殺害する理由にはならないが……。
前掲意見書の返答表現を借りるならば、「確かにご利用者への介護の質が悪く、また職員の処遇もよくないところがあると思います」、その最悪級(?)の事業所例が『いつ恋』の放映と同時進行で露呈しているということなのか。介護関係者たちの落胆は推して知るべし。
「いつかこの“数字”を思い出してきっと泣いてしまう」
先月は、訪問介護中の窃盗を犯した代表者の有罪判決に伴い、愛知県が同氏の運営する事業所の指定を取り消すという暗い話題もあった。一方、やはり先月に厚生労働省が公表した試算結果によれば、2020年代初頭を見据えての確保すべき介護人材は約25万人に上る。
「2020年までに約20万人確保」とされてきた従来の数字が5万人分プラスされた背景には、安倍内閣が謳う“一億総活躍”国民会議の「介護離職ゼロの実現」「約38万人分の在宅・施設サービスを整備」という無茶ぶりがある。
かの意見書も「今、介護人材の不足が叫ばれ、国を挙げてその確保・育成に取り組んでいます」と番組制作上の配慮を述べていたが、安倍政権の掲げる目標値に現実感を覚える向きは少ない。
「いつかこの“数字”を思い出してきっと泣いてしまう」のは国民側なのである。
(文=編集部)