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【シリーズ「DNA鑑定秘話」第27回】

北朝鮮の拉致被害者・横田めぐみさんのものとされる遺骨は偽物?

遺骨のDNA鑑定の真相は?

 科学雑誌『ネイチャー』(2005年2月号)によれば、帝京大法医学研究室の吉井富夫講師は、まず横田めぐみさんのへその緒から得られたDNA、娘のキム・ウンギョンさんのDNA、母の早紀江さんのDNAを照合、血縁関係を確認する。細胞のミトコンドリアに含まれるDNAは、主に母親から受け継がれるからだ。

 その後、横田めぐみさんの遺骨のDNA鑑定を行なうが、遺骨からは横田めぐみさんのDNAは検出できなかった。同時に分析した科学警察研究所は、判定不能と発表。日本政府は、遺骨は別人のものと発表した。

 遺骨からDNAを検出できなかったのはなぜか? 吉井講師は、ネステッドPCR法によって鑑定を進めた。ネステッドPCR法は、DNAを増幅するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法の1種だ。DNAを十分に増幅できない場合は、検出感度を上げるために反応を2回行う。

 その結果、感度がより高まるが、コンタミネーション(試料汚染)が起きやすく、検出時間がかかり、分析精度が低減する欠点がある。しかも、吉井講師は、火葬骨の鑑定経験がまったくなかった。また、遺骨は鑑定時に使い果たし、再鑑定は不可能になった。

 法科学鑑定研究所によれば、人骨の中心部に赤血球・白血球・血小板などを生成する造血細胞が存在するが、造血細胞は、おおよそ500℃以上の熱によって完全に焼失する。日本の火葬場で使われる主燃料は、ガス・灯油・重油。炉内温度は、約600~800℃、燃焼炎温度は、約2000℃だ。

 人骨は、外部の強固な緻密質が内部の骨髄質を守っているので、土葬骨から血液型やDNA型を判定できる。だが、火葬骨は、骨の内部組織が焼失し、石灰成分しか残存しないため、血液型やDNA型の判定はできない。

 DNA鑑定の最高権威として知られる米国国立標準技術研究所のジョン・バトラー博士によると、1200℃で焼却された遺骨をDNA鑑定するのはほぼ不可能という。世界的なDNA鑑定の専門家の多くは、北朝鮮が提供した遺骨のDNA鑑定の結果は疑わしいと見ている。

 朝鮮半島に火葬の習慣はないため、北朝鮮が提供した火葬骨の捏造への疑念を主張する論調もある。

 拉致事件を時系列に追うほど、内外の情報を集めるほど、ますます真相から遠のき、視界が悪くなる。なぜか?

 『ネイチャー』(2005年3月号)は、論説『政治と真実の対決』を掲載、「日本の政治家たちは、どんなに不愉快でも科学的に信頼できないことを正視しなければならない。日本政府は、科学的整合性を犠牲にすべきではない」と強く反論。

 さらには、「別人判定を下した帝京大講師がその後、科学捜査研究所の法医科長となり、インタビューが事実上不可能になった。この転職は拉致事件の調査を妨害する」と日本政府を批判している。

 拉致されて38年となった昨年11月15日、拉致事件の解決を訴える支援集会が新潟市内で開かれた。

 「38年間も歯を食いしばって、命さえあれば帰られるんだと信じて待っていると思う。どうか、本気で助けること、命を助けなければならないという思いだけで、動いていただきたい」(早紀江さん)

 「北朝鮮との交渉に一定の期間を切って、それまでにできないと思ったら、また違うことをしなければうまくいかないと思っている」(滋さん)

 歌を歌うのが好きだった横田めぐみさん。その唇が知っている歌は、望郷の歌なのか? 母の子守歌なのか?


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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