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将来「認知症」になったとき自分を守る「後見制度」とは?

地震と同じで回避しようのない自然現象、認知症に備える

 それにもかかわらず、成年後見制度があまり使われていないのにはいくつか理由があるという。
「申し立ての方法が分かりにくかったり手続きが煩雑だったりする。周囲が申し立てをしてくれるかわからない。後見人による不祥事が心配。申し立てはできても後見人が本人を知らないので何をして良いのかわからない、、、といった事情があるからです」と表理事長。

「寿命と健康寿命には約10年の差があります。その間に、本人が認知症に罹れば、誰かが財産を管理したり保護したりする必要が出てきます。健康でなくなってから亡くなるまでをどうするか。そこには介護の他に、法的なケアも必要です。認知症は地震と同じで回避しようのない自然現象です。これに備えるために、意思表示が確実な時期に、法的に有効な意志情報を前もって登録しておくことが大事です」
 
 本人の判断能力が喪失してしまったり、危うくなったりした場合でも、不安なく、そして心地よい暮らしを送ることができる。それを可能にする手段のひとつとして、この制度がある。

成年後見制度はどのように利用すべきか

 認知症の方を在宅で介護しはじめると、介護スタッフ、訪問医、弁当の宅配など人の出入りが途端に多くなる。その分、金銭トラブルのリスクが伴うこととなる。
「後見人が通帳を管理することで、そうした無用のトラブルを避けることができます。独居の場合にしても、施設にいる場合にしても同様です」と表理事長。
 
 後見人は具体的にどんな仕事をするのか?
「ケアマネージャーや家族らと連絡を取り合って様子を聞いたり、1カ月に1回程度、本人会って様子を見たりします。お金の価値がわからないほどに判断能力がなくなってしまった場合は本人にお金は渡さず管理しますが、判断能力が残っている人には、数千円などお小遣い程度のお金を渡し、その範囲で使っていただきます」

 後見人をつけるにはやや手間がかかるが、最も多いは次のようなケースだという。
「親族が預金を下ろそうとして断られ、後見人をつけるようにと銀行にアドバイスされ、慌てて裁判所に申し立てるケースが多いですね。また本人がまだ元気で、判断力がある場合、自ら後見人を指名し、生活や財産、趣味などの意志を伝える場合もあります。どちらのケースも家庭裁判所に申し立てをするという点で共通しています。

 後者の場合、本人の判断能力が喪失した時点で、指名された後見人が申し立てをすることになります。お元気なときの姿を後見人が知っているわけですから、判断能力が失われた後に裁判所が後見人を決めるよりも、より積極的な支援ができます」
 

弁護士や司法書士などが多い後見人

 後見人となるには何か特別な資格が必要だったりするのだろうか。
「資格は必要ありませんが、裁判所が決める場合は弁護士や司法書士などの法律実務家が後見人となることが多いです。後見事務に詳しく、福祉に理解のある実務家が選ばれることになっています。家族などの法律実務家以外の人が任意後見人になっても構いません。任意後見人の場合、裁判所が決定する任意後見監督人を必ずつける必要が出ます」

 後見人は「法定後見制度」と「任意後見制度」という2つがあり、どちらにするのかは、被介護者である本人やその家族の選択次第である。但し後者は認知症になってからでは選ぶことはできない。

 前者は、成年後見人、保佐人、補助人と三種類に分けられるのだが、これは本人の判断能力がどの程度あるのか、ということに応じて家裁が決定される。なお、そのうち9割が成年後見人である。
「任意後見制度」は本人が十分な判断能力があるうちに、将来に備えてあらかじめ自らが選んだ任意後見人に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約を公正証書で結んでおくというものだ。

 いずれにせよ、どんな意志や情報をどんな方法で保存するのか。どんな人を後見人にするのか、どうやって見つけるのか、将来自分の意志を実現する仕組みを作るのか。そういったことを、あらかじめ決め、自分の意志を保存しておくことが大事である。

 では最後に、気になる後見人の費用について最後に聞いておこう。
「法律実務家が後見人になる場合は月3万円、後見監督人になる場合月に2万円が相場ではないでしょうか」と表氏。手に届かないという額ではない。高齢の親がいる人は、将来に備えて、この制度の利用を考えてみてはいかがだろうか。
(取材・文=西牟田靖)

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